(前回のつづき)
1992年にエジプトはアレキサンドリア沖合いの海底からプトレマイオス朝の遺跡出現!というニュースは、実にセンセーショナルなものだった。
なにしろこれが出てくるまで、アレキサンドリアを首都としたこの時代、かの有名なクレオパトラやシーザーはじめとした当時の王侯貴族がどこに住んでいたかは謎だったのだ。
伝説に伝えられるムーセイオンや図書館も、正しい位置は想像の範疇。
墓やら円形劇場やら、名残を残す遺跡がまったくないわけではないが、現存するものはどれも保存状態があまりよくない。
だからエジプト考古学史上稀な素晴らしい発見だったことは間違いない。
ワタシは見たかった。絶対に見たかった。
だから「海のエジプト展」の話に胸は高まる。
しかし「本当にプトレマイオス朝のもんだけで『古代エジプト展』をやるのか?」と、微妙に引っかかってもいたのだ。実を言うと。
ちなみにプトレマイオス朝は、ざっくりと紀元前300年から紀元前30年頃エジプトのアレキサンドリアを首都にして栄えた古代王朝。
簡単に言えば、アレキサンダー大王に始まってクレオパトラに終わる時代だ。
地元エジプト(?)ではなく、ギリシャ系の征服王朝である。
古代エジプトと一口に言うが、実は世間でよく知られているツタンカーメンの秘宝やらラムセス2世の偉業やらは「新王国時代」のこと。これは紀元前1570年頃から紀元前1070年頃で、こうして並べても700年ばかり時代が違う。
古代ギリシャの人々にとっては、同じ古代エジプトでも当時既に遺跡観光の対象でもあった。
あれピラミッドは?と言えば、これは「古王国時代」で、紀元前2500年から紀元前2000年くらいの時代。
新王国時代のファラオにとっても、これまた遺跡観光の対象みたいなものだ。
ちなみにヘロドトスも観光客の一人で、エジプト以外もひっくるめた旅行話を『歴史』という著作にしている。元祖「地球の歩き方」だと思う。
なんと観光地としては3000年以上の歴史を誇るエジプト。
世界一の観光立国と言って差し支えなかろう。大したものである。
ざっくり雑な話でスミマセン。
先に書いたことの繰り返しも入るが、要するになにが言いたいかというと、プトレマイオス朝は
1.文化系列はグレコ・ローマン、つまりギリシャやローマ系だから「いわゆる
古代エジプト(ファラオ系、としておく)」とは毛色が違う。
2.時代は新しいけど、内容的にはファラオ系より格下とされている。
・・・と、いうわけで、改めてこうしてみると「古代エジプト」を前面にうたわずに
「海のエジプト」とはうまいネーミングだったと思う。
確かにうまいんだけど、中にはだまされたような気分になる人がいてもおかしくはない。
確かに古代エジプトのファラオの格好をしているのだけれど、細工なんかはおおかたギリシャ風なのだ。
この混ざり具合をファラオ風と対比してみれば、これはこれで面白いものなんだけれど、対比しようにもアレキサンドリアからファラオ系の遺跡の出土はまずないから比べようもない。
上エジプトのデンデラにあるクレオパトラとカエサリオンのレリーフ(腹部など体の線が曲線的なのがグレコ・ローマン風)
上エジプトのアビドスにあるセティ1世(新王国時代)の壁画
展示物に何があるのか調べて見たけれど「いままで日本に来たことのない古代エジプトの巨大石像5m級」くらいしか目新しいものはないように思えた。
パシフィコみたいな巨大施設でなければ展示できないものだから、確かにこれは「日本で見られる」という意味では一見の価値があるだろう。
しかし、あの大会場でこの料金(大人2300円)で、でっかい像以外のもので見ごたえを出すとしたら、モノより演出が頼りのイベントになってしまうよなあ・・・と内心不安に思っていたのである。
で、結論を言えば、やはりプトレマイオス朝のものだけでは展示品の迫力が今ひとつ。
海洋考古学の壮大なスケールと、世紀の大発見であるという事実をキッチリ念頭に置けばそれなりの感興は湧きおこるのだが、全体にアカデミックな面白さよりはエンタテイメント系の楽しさ主体の展覧会だった。
ディテールが美しい女神像や巨大な石碑など、見ごたえのあるものも確かにあったが、あともう少し突っ込んだ解説が欲しかったと思う。
尚、あちこちで「見てきた感想」を覗くと、古代エジプトの遺跡関係のものを見慣れていない人の場合「それなりに面白いけどこんなものだろうな」というトーンが多かったように見える。
深い関心がなくてなんとなく見に来た人を、大きく揺さぶるほどのパワーはなかったのだろうか?
もちろん感動した人もいて、それはそれでちっともおかしくない。
結局こういうものは、モノ自体が持つ力もあるが、基本は見る側の興味関心次第なのだから。
でもこの展示に揺さぶられるものがあったなら、是非とも一度はエジプトに行って、こころゆくまで圧倒されて欲しい。
巨大な石像などは、展示ではなく太陽の下にぞろぞろ立ち並んでいる。
エジプトは遠くても、せめてロンドンなりパリなりの博物館に行けばきっと全身震えるくらい感動できる。
展示物のレベルとボリュームがそのくらい違う。
ルクソール神殿ラムセス二世像(ルクソールにはこんなもんがぞろぞろある)
さてワタシの場合、本来は遺跡などに関心の深いほうではないけれど、過去の行きがかりでちょっと見聞が広がったから見に行きたかっただけなので、一通りざっとみたら詳細はプログラムを買ってじっくり・・・と思っていた。
出口のショップで早速財布を出したら、なんとそういった資料の販売はDVDのみ。
ええ?!ソンナバカナ??!!と驚いてしまった。
これだけはなんとも不思議だ。
展示物に自信がないのだろうか?
それとも最近のこういう展覧会は、プログラムではなくDVDの販売が主力に変わったりしているのだろうか?
他のことは、単なるエジプトずれした元現地ガイドの愚痴みたいなものにすぎないが、この一点だけはどうにも残念。
こういうイベントは、見たものをあとでゆっくり本で検証して初めて面白くなってくると思うのだけれどな。
どちらかというと、資料入手ついでに見に行ったようなものなので、ちょっと拍子抜けした。
展示そのものは、子供も大人も楽しめるエンタテイメントとして工夫が凝らされていて、いわゆる展覧会とは一味違った面白さはあった。
入場料がちょっと高かったのではあるが、展覧会ではなく「古代エジプトテーマパーク」みたいなものに行ってきたんだ、と思えばそんな値段だったかもしれない。
しかし、テーマパークだからプログラムや資料なんかなくてもいい、という発想だったとしたら馬鹿馬鹿しくも残念なことだし、「プログラムなどなまじ販売すると客足が鈍る」などという発想がどこかにあったとしたら、非常にお客を馬鹿にした話で腹立たしくさえある。
展示品自体が素晴らしければ、プログラムをみたら行って実物を見たくなるものなのだけれど・・・しかし、今回の展示でプログラムがあったとして、事前に入手して見た場合、確かに私は行かずに済ませたかもしれない。
そう思うとちょっと複雑ではある。
その他雑感は、もうひとつのブログに別途上げようと思うが、とりあえずはアレキサンドリアのことなどいろいろ思い出すよすがになって楽しくはあった。
まあとりあえず、見られてよかったな。
行ってきたからこんなことも思えるのだし。
以上、自分用のメモも兼ねて、散漫だが感想など。
尚、写真はオシリス・エクスプレスの写真素材集から借りてきたものである。