2009年09月29日

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嗚呼、アレキサンドリア!

『海のエジプト展』という展覧会が横浜にやってきた。
もう終わってしまったのだが、なんとか終わる間際に見て来られたので、展示品の出土地アレキサンドリアを巡るあれこれを書いておこうかと思う。
(以下、写真はオシリス・エクスプレスのもの)

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アレキサンドリアの海底から出土したものが日本にやってくる、と聞いたときは少なからず胸が高鳴った。

地中海都市、アレキサンドリア。
カイロに住んでいた頃に何度となく出かけた街だ。
バスだの列車だの車だのとアクセス方法はいろいろで、何で行ってもおおよそ3時間くらいで着く。
私は列車で行くのが好きだった。

車の場合はたいてい「アレキサンドリア砂漠道路」を行くので、道路の名前が示す通りに砂漠のど真ん中を突っ切り突っ走る風景となる。
しかも、砂漠道路に入る前にギザのピラミッド辺りを通過するのだが、この辺の交通渋滞と来たら当時のカイロ近郊でも最悪のものだったのだ(現在はバイパスがいろいろ整備されて、かなり改善されたと聞いている)。

一方で、列車は緑豊かなナイルデルタ地帯を進む。
殺伐としたカイロの日常風景を離れてこの田園風景を眺めると、豊かな緑が目にしみるようだった。

アレキサンドリアは、イメージよりはかなりごたごたした街だ。
でも海があり(汚くても)、潮風が吹き(若干生臭くても)、魚介類がいろいろ食べられる(所詮芸のないエジプト式調理法でも)。
比較対照の問題ではあるが、カイロよりは落ち着いたのどやかな空気の街で、空も多少はきれいで広く感じられる。
要するに、カイロ発の日帰り息抜き小旅行には手頃な場所で、東京の人が横浜に来たり札幌の人が小樽に行ったりする感覚、と言ったらわかりやすいかもしれない。

アレキサンドリアという町そのものは、観光で短期間来た人にとっては優先順位が低い町なのではある。
なにしろ遺跡がグレコ・ローマ時代のものになるので、ギザのピラミッドなどが出来た古王国時代(紀元前2500年〜2000年ごろ)やら、ツタンカーメン、ラムセス二世といった有名なファラオがいた新王国時代(紀元前1800年ごろ〜1500年ごろ)に比べると、遺跡の歴史が千年ばかり新しいし(!)し、出来も悪い、というのが大方の意見だ。
なにをもって「出来が悪い」のかまでは、実は私もよくわかっていないのではあるが。

敢えて私自身の好みを言うと、大迫力で迫り寄ってくるようなファラオ時代の遺跡群や遺物より、なんとなく明るい地中海の光が感じられるグレコ・ローマのものの方が絵になるし可愛らしい感じがしてほっとするのだけれど、それは二年半に渡って「古代エジプトの大遺跡」をウンザリするくらい見続けた結果だとも言える。
当時はツアーガイドを生業にして暮らしていたのだ。

しかしまあ、実際に目にすると、確かにファラオ時代のものの方がスケールが大きいし迫力もある。
とりあえず少なくとも、観光地としてはルクソールなんかの方がはるかにハイレベルなのは間違いないと思う。

しかも現代のアレキサンドリアは、古代ギリシャの匂いもクレオパトラの残り香もしない。
先述した通りのゴタゴタしたアラブ風の港町だ。
地中海都市らしさは薄い。
極端な話、一泊程度ならカイロにいるのと感覚的にはそう大きな差はないと思う。
地中海は見られるが、ナイル川がないデメリットをカバーするほどではなかろう。

グレコ・ローマン博物館 クレオパトラ頭像
クレオパトラ頭像(グレコ・ローマン博物館所蔵)

だから「エジプトに一週間だけ行くのだけれど、アレキサンドリアを日程に入れるべきだろうか?」と悩む人がいたら、「よほど地中海や古代ギリシャに思い入れのある人以外は飛ばしちゃうのが得策ですよ」とアドバイスすることにしている。

街には小さな博物館があって、クレオパトラ7世やらシーザーやらの頭像など、主にこの街近辺で出土したグレコ・ローマンの遺物が展示されていた。
仕事でお客を連れていってガイドをやったりもしたのだが、いつもそれほど混まないコンパクトにまとまった博物館で、ツマランという人が多かったがワタシは好きだった。
実に鄙びた雰囲気の博物館なのだが、そこがなんだか牧歌的でギリシャ風ないい味を出していたと思う。

グレコ・ローマン博物館中庭
グレコ・ローマン博物館の中庭

いまやこの博物館はないそうで、2001年に旧図書館跡地にできた『アレキサンドリア図書館(Bibliotheca Alexandrina)』内の考古学博物館として生まれ変わったそうだ。
「旧図書館跡地」などと簡単に書いちゃったが、この古いほうが出来たのは
1800年ほど(!)前の話で、7世紀にイスラーム勢力が侵攻した段階で破壊されたらしい。最盛期はプトレマイオス朝時代末期で、クレオパトラ7世(世間でいわゆる女王クレオパトラ)の時代が最盛期。当時は世界の学問文化芸術の最高峰だったという。

この辺の詳しい話はこちらをご参照いただきたい。

新博物館、ワタシは残念ながら未見だ。
以下のURLを見る限り、相当ハイレベルな施設である。
迂闊にもいままで詳しいことを知らなかったのだけれど。
英語・フランス語・アラビア語に加えて、日本語のサイトまであるのでイマサラに驚いた。

http://www.bibalex.jp/Japanese/index.htm


(つづく)


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