2006年05月27日

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嗚呼、イスタンブル! 【第57話】〜前編〜

●5月29日

この日は何の日か?
オスマン・トルコがコンスタンティノープルを陥落した日だ。

コンスタンティノープルというのは、ギリシャ語ではコンスタンティノポリス
といって『コンスタンティヌスの町』という意味。
この辺、読み方がギリシャ語、ラテン語、英語と交錯していて、
いちいち説明をつけているときりがないので、コンスタンティノープルに
コンスタンティンで統一してしまう。悪しからず。

ここでいうコンスタンティヌスとは、勿論かつて東ローマ帝国を建国した
コンスタンティン大帝のことだ。

ちょうどヨーロッパとアジアの分岐点にあり、北に中央アジア、南にアラブから
アフリカへつながる通商路の、丁度交差する地点にある。
よくぞここを選んだものだと思う。


●「イスタンブル」か「イスタンブール」か?

その都市名の変遷をたどると、三回や四回ではすまないし、そういう本は山ほど
あるので、近代にいきなり飛ぶ。

日本でひとつ、国としての見識を感じるのは「各都市や国家は現地語読み」
という原則だ。
ただ、誤って入ってきて長く呼び習わされると、それで定着してしまうことも
ある。イスタンブールがいい例だ。

昔々(になるのだろうな、やっぱり)、庄野真代という歌手が歌って流行った
『飛んでイスタンブール』という歌があった。
この「飛んでイスタ〜ンブ〜ル〜〜」というサビが、実にポップかつ演歌調で
秀逸だったせいか、日本人の頭にこの都市名は「イスタンブール」と完全に
インプットされてしまったくらいだった。
でも、原語主義を採るのならば正確には「イスタンブル」が正しい。

では、なぜ「イスタンブール」と伸びてしまったのか、と、ふと不思議に
思って調べたら、ペルシャ語やアラビア語では伸ばしているのである。
たぶんその影響なのだと思う。

でも、トルコ語では「イスタンブル」だ。

*注:尚、この『飛んでイスタンブール』は『異邦人』同様、カラオケで入ると
問答無用で私がマイクをふんだくることにしている。



●「イスタンブル」の意味するところ

これは諸説あって、どれも微妙に無理があるようにも筋が通っているようにも
思えるから不思議である。

ただ、意外や「イスタンブル」という都市名が正式名称となったのは、
1923年にムスタファ・ケマル初代大統領がトルコ共和国を創立した、
その10年後の1933年となる。
それまでは「スタンブル」だの「クスタンティニーヤ」と呼ばれていたそうだ。
いずれもアラビア語で、前者は「コンスタンティノープル」の「スタン」と
「プル」がくっついた略称が定着したもの。
アラビア語では「p」を「b」と発音する癖があるので「プル」→「ブル」と
変成したのだろう。

なぜにその前に「イ」がついたかは調べ切れなかった。
トルコ語は二重に子音を使うことを嫌うので、特に「トルコ語の純粋化」を推進
していたケマル・パシャが「イ」をつけた、という説はある。
逆に、アラビア語の方言では「イル」という定冠詞をよく使うので、
子音とリエゾンして「ル」が落ちて「イスタンブル」になったのかもしれない。
「The Metoropolitan」というような意味になるから、悪いイメージはない。

後者の「クスタンティニーヤ」は、そのままコンスタンティンの名前が残った
「コンスタンティンの町」という意味。

当時のトルコはギリシャとは見事に仇敵同士だった(今でもそうだけれど)ので、
自然とイスタンブルに収まったのかなあ、と思う。

余談だが、梨木香歩の『村田エフェンディ滞土録』という、ちょっとステキな
幻想小説があるのだが、ここの舞台は1899年の「スタンブル」。
村田という日本人の研究者が、この街に滞在して遭遇するさまざまな出来事を
描いた小説なのだが「あの時代」のにおいが感じられる佳作だ。
オススメである。

(後編に続く)





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