2005年10月20日

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ラマダーンの風景 其の四 〜異国での断食について〜 【第32話】

●断食しなくてよい人々

さて、ここまで三回「自国で断食を行う人々」の話をしてきたが、
「しなくてもよい」人々もいる。きちんと教義で定められている。

以下、毎度おなじみ『岩波イスラーム辞典』から引用する。
「高齢者、身体虚弱者、病人、旅人、妊婦、授乳中の婦人、月経や産後の出血
のあるものなどは断食を免除される。最初の二者は断食できなかった日数分と
同じ人数の貧信徒に一食を与え、他の者たちは後日に埋め合わせの断食をしな
ければならない」

というわけで、例えば先日のワールドカップ予選のエジプト代表選手たちは普
通に食事をしていたはずだ。アウェイで「旅人」ですからね。

もちろん、後でちゃんと帳尻を合わせなければいけない。
でも、エジプトの様子を見ていた限りでは、どうも「期間外に独自に断食する」
というのはなんだか少数派に思えてならない。
実際「休んだ分やった?」とこっそり尋ねたら「へへへへへ」という返事が
くることしばしば。
「本当はやらなきゃいけないんだよ。へへへ」だって。

きちんとやっている人も、相当数いるのだろうと思う。
例えば、私の友人で、日本人ながらエジプトの男性と結婚して
敬虔なイスラム教徒になった女性がいる。
彼女が妊娠中「みんなが普通に食べたり飲んだりしているときに、
一人でこつこつ断食しなきゃ行けないから、もう考えただけで拷問だわ」と
ボヤいていたのを覚えている。

見ていると、外国人で敢えてイスラームに改宗した人たちのほうが、
逆にまじめにやっているようだ。
当たり前にイスラームの環境で生まれ育った人たちよりも、
時にはるかに教義に忠実なのがこういった人たちだ。

イスラム教徒であることが、当たり前な環境で生まれ育った人たちの場合、
意外に細かい教義を自分なりに都合よく解釈していることが結構ある。

とはいうものの、真面目な人は異国でもきちんと断食を行う。
こういうケースは、カイロやトルコというよりは、実は横浜時代にいろいろと
知ったのだ。


●イスラム教徒の本音と建前

現地で周囲と歩調をあわせて断食するのは、ある種の一体感があるらしい。
実は結構楽しいもののようだ。
この間、友人や家族どうし招いたり招かれたり、時には連れ立って外の
レストランで「イフタル」をいただいたり、意外や毎日がイベントである。

トルコはちょっと特殊だが、イスラーム圏の断食はたいていの場合、
イベントとしてみんなで一緒に楽しむもののように思える。
だから、なんのかんのと理由をつけながら断食をしないでいるより、
参加したほうがラクで楽しい。

そんなわけでこの時期、敬虔なイスラム教徒は、長期の旅行や海外出張などを
避ける傾向は強いが、それでもやむにやまれず海外でこの時期を迎える人たち
もいる。
数日ならばともかく、数週間以上にわたる滞在になる場合も時にある。

現地在住者の場合はそれなりに「自宅」で対応するが、仕事でホテルに
長期滞在している人もいる。
いわゆる「いいホテル」に滞在する場合は、ホテルにイフタールに
対応するようリクエストが入り、あれこれと対応することになる。

この期間イスラム教徒が多く滞在するホテルは、前もって「イフタールセット」
を特別にスタンバイさせることもある。なんといっても、肉は「ハラール」
じゃないといけないし、ソースにアルコールが入るなどもってのほか。
こういう「うっかり」を避けるために、真面目な信徒はベジタリアンとなる。
ラマダーンの時期に限らず、とにかく野菜を食べていれば安全、というわけだ。

本国での盛り上がりようを知っているだけに、そういう人たちが真面目に断食
をしていると、つい何かしてあげたくなったのは事実だ。

さて、海外で断食をする人々はどうしているのだろう?

大きく分けて、三つのパターンがある。


1.まじめに何とか断食を行う

ホテルのイフタール食か、ルームサービスでお茶とパンとゆで卵にチーズなど
の乳製品、といったようなあたりさわりのないメニューをオーダーする。


2.食内容に多少は妥協するが、基本的に断食は行う

海外で「ハラール」な食品の入手が難しいので、肉については豚肉を避け、酒
類がソースに入らないよう注意して飲食する。海外からの出張者の場合、公式
な政府のミッションの公式な会食などを除くと、ラマダーン以外の時期はこの
パターンが多いようだ。
実際「やむをえない時はハラールでなくてもよい」という免責事項は一応ある。


3.やったりやらなかったりする

1のパターン、毎日必ず全員ホテルでオーダーするとは限らない。
もちろん、ホテル外で知人宅に招かれるなどのケースはあろうが、
どうもグループ内の「単独行動時」など断食を休んでいることがあるようだ。
この辺は、本音と建前の使い分けだろう。
あと、グループのボスがいるときは触りもしない「ハラーム」な肉類を、
不在の時はテンコ盛で食べているケースもある。
この辺の「線引き」に絶対則はない。

だから、テレビの有料放送などという不埒なものも、ミニバー内のアルコール
飲料も、事前に通達がない限り勝手にホテル側が判断していじってはいけない
のである。


4.やらない

イスタンブルでも遭遇したケースだ。
「旅行中はしなくてよい」と言う。
「ただし帰国後一人で埋め合わせの・・・」というところは言わぬが花である。
でも、いくらOKでも、お酒は飲んじゃいけないんじゃないの・・・?
なんて、余計なお世話なのだ。

出身国によっては、終始一貫して「オレ関係ないし」という人もいる。
でもこういう人が、ある日エジプトで会うと「おれ、断食中なの・・・」と
目線を下げながら言うこともある。
実際、さすがに豚は食べなかったけれど、海外ではイスラーム的なことに無縁
に見えるし、自国でも日々飲んだくれているようなエジプト人の友人が、
ラマダーンだけはちゃんとやっているから驚いたことがある。


「海外でラマダーンにぶつかったらどうするの?」
「・・・やらない・・・」

散々おちょくり冷やかし倒した、私は単なるいじめっ子だが、結局ホテルの
イフタール・ビュッフェで仲良くジュースを飲みながらご飯を食べたっけ。
いや、さすがのワタシも、あの場で「ビール!」というだけの
根性はなかったし。

ともあれ、宗教との取り組みは、イスラームでもやはり様々なのである。



●そして、横浜

カイロに5年勤めた後、横浜の同じチェーン内のホテルに異動になった。

この時は、やれやれこれで、イスラームだアラビア語だという世界から離れて
暮らせる、と、なんだかしみじみと寂しく、同時になんとなく晴れ晴れと
嬉しかったものだ・・・。
で、結局のところ、そんな感慨は単なるあま〜い感傷に終わったのである。

配属は営業部で、学会コンベンション担当に配属された。
基本的には医学会が多く、あちこちの大学病院などを回ってお医者さんたちと
お付き合いすることが増えた。
だから、確かにクライアントの内容は一変したのだが、海外渉外をある程度
集中して引き受けることになっていたし、国際学会もあるので、結局のところ
ナンノカンノと終いまで、変わった国のおかしな話に付き合う羽目に落ちた。

横浜は横浜なりに、案外椿事にあふれていたのだ。
世界中どこに行こうが、もう逃げられないということかしらん・・・などと
ブツクサ言いつつ退職してはや数年。
いつのまにかこういう連載を持つ身になって、
相も変わらず「イスラーム関係」とのお付き合いは続いている。

次回は何故か横浜で、ラマダーン中におきた、ある晩の事件をひとつ。

(続く、インシャアッラー)

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この記事へのコメント
ラマダーン ムバーラク♪

いつも楽しみに拝見しています。

先日飛行機の中でもちゃんと断食している方がいらして、
でも、どこの時間帯に合わせてやっているんだろう・・・?と思って
質問しちゃいました。。。

日本にいる私に、お友達は「断食しなよ♪」と誘ってきます^^;
連帯感が湧くんでしょうね。
Posted by SuuSuu at 2005年10月21日 09:51
こんにちは。SuuSuuさんのブログも楽しみに見せていただいています。シリアとレバノンにいってらしたんですよね! 
飛行機の中での礼拝は、ラマダーン中に限らずたまに見かけますね・・・果たしてどこの時間に合わせているのでしょう? その質問された方は、なんと言うお返事でした? 教えてくださいませ。
断食については「いっしょにやろう」とか「やるべきだ」とか言うムスリムがいるけれど、純粋な宗教行事なのに安易なことを言うなあと、正直なところ私は受け入れられずにいます。これはあくまで私見ですし、私は不良とはいえ一応クリスチャンだからということですが。現地のキリスト教徒も、陰に回ると結構ブウスカ文句言っています。クリスチャンは中東各地に結構いて、彼らも結構しょっちゅういろんな『断食』をしているのですが、社会生活上は見えにくいのですよね。またいろいろ教えてください。よろしくお願いします。

Posted by アリーマ at 2005年10月21日 15:49

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