
このところ、すっかりアラブ料理モードにはまり込んでいたので、横浜の『アル・アイン』へ。
「アイン」は泉の意。
さて、このレストランは憩いのオアシスになるだろうか?
結論を先に言うと、そうなりそうだ。
大変美味しかった。
日本で中東料理、トルコ料理というところにはたまに行くけれど、また是非行きたいと思う店には滅多にぶつからないので「どうしてもっと早くこなかったんだ〜!」と己を責める。
「僕は毎年、本場のを食べてしまうからねえ。ううん」などと、今ひとつ誘っても乗ってこなかったオットまでが「まったく、どうしてもっと早くいわないのかなあ」と憎まれ口を利く。
まったくもう。
余談だが、彼は仕事でレバノンにもよく行く。
周辺湾岸諸国も抱き合わせで「ドサまわり」になるのだが、
「思いっきり肉食圏」のこの界隈、巨大草食獣である夫には、ほとんど日々が拷問に近い。
何しろ「客人はテンコ盛りの羊肉でもてなす」というのが基本姿勢のエリアなのである。
たとえばテヘランに三泊すると、毎晩違う取引先が現れては
「今日はテヘランで一番うまいシシカバブを食べさせてあげよう!」と、
毎晩違うレストランで羊責めに合うそうだ。
「きみがいたら喜ぶだろうなぁ」と、こういう時だけ「肉食獣」と蔑んでいる妻を思い出すらしい。
で、そういう彼がほっと一息つけるのがレバノン。
野菜が豊富で、魚もあって、とにかく前菜類が充実しているから、毎晩レバノン料理でもいいくらいだと言っている。
ううう、いいもん食べてるんだろうなあ。
何しろ、どこの国で何を食べるにしても、現地の名士が連れて行ってくれるところが、一番美味いに決まっているのだ。
これは中東に限らない。
話を横浜に戻そう。
出かけたのは土曜日で、金曜と土曜はセットメニューのみとの由。
ベリーダンスのショーがあるので、ショーチャージも含めたメニュー設定になっているとか。
思いっきりマッザ(前菜)をテーブルに並べまくろうと期待していたので、ちょっとがっかりするが、気を取り直してコースを二種オーダー。
内容はレバノンとエジプトとマグレブ方面を、あれこれ組み合わせたようになっている。
まず前菜で「ん?」となる。
量が少ないのだ。
確かに一品の盛が大きすぎるのも、いろいろ食べられないから困るが、しかし盛り付けがあまりに上品である。
ただし、それぞれは非常においしい。
若干日本人向けにソフトに修正してはあるが、基本的にエジプトあたりで食べた高級レバノン料理と大差ない。ひょっとしたら、こっちのほうがおいしい。
夫も「現地の味がする。おいしいよね」という。
「でも、中東の客が見たら憤死するぞ、この量じゃ」
で、我らはアホのようにホブズ(アラブ風の平たいパン)をお代わりしまくり、それでも「なんか物足りん」とブーたれていたのである。
でも、コースとはいっても、決して原価が安くはなかろうホブスを、これだけむやみに食べさせてくれるなんて豪気ではある。
メインにとったラムチョップも上々。
控えめだが丁寧に染みた香辛料と、ラムの肉汁がマッチして、これは正しく懐かしの「レアーシュ」だ。
うっうっ、久しぶりだなあ、こういう羊肉。
「肉ダメ」の夫までが「ひとくちクレ」と言い出す。
「お、うまい!」
とこうしているうち、オーナーシェフのジアード・カラムさんがテーブルにやってきた。
「どうですか〜?!」
彼は、明るく元気にシェフ姿で各テーブルを回るのである。
「パンお代わり? もっちろん、いいよ〜お代わり一万円ね〜」
こういう人がいると、今ひとつ地味だった店の空気も一気に賑わう。
大半は「アラブ料理って?!」と好奇心いっぱいでやってきたお客さんなので、こんな風に店の人が盛り上げてくれて、あれだこれだと説明したり現地の話をしてくれたりすると、やっぱり楽しいものだ。
そう、アラブ料理などに限らず、日本のエスニック系レストランでどうも今ひとつ物足りないのが、こういう「押し出しの明るさ」だなあ、と、この日つくづく思った。
さて、われらがテーブルで。
「パン好きですか? お料理どうですか?!」
言おうか言うまいか悩んだが、とりあえず言ってみた。
「とっても美味しいんだけど・・・」
「ちょっと量が・・・」
「追加で何か違うマッザは、ないだろうか。いや、ギブナ・アビヤド(白チーズ)とかでも」
そこでジアードさん「むむっ!」という顔をしたのだ。
なんかいきなり気合の入った感じ。
「ショー終わるまで待って。ナニ食べたい?うん、ワカッタ」
で、ベリーダンス。
ダンサーは日本人ながら妖艶なアラブ美女風の肉体も艶かしい。
なかなか雰囲気があるし面白い。
お客さん参加形式なので、ジアードさんがうまく盛り上げた周りのグループは楽しそうだ。
我ら夫婦は残念ながらこういうノリが苦手なのだが、ダンサーと目が合ったときに目線で「パス」と伝えたら、無理強いもされなかった。
さて、ショーが終わると・・・出るわ出るわ。
あれやこれやが、テンコ盛りである。
しかも、メインにモーザという「子羊の骨付き腿肉」まで。
さっき出た前菜類も、今度はオリーブオイルがしっかりかけてある。
で、忘れていたのだが、ホブズというのは後でドカンとおなかにくるのである。
「ドカン」の過去を思い出しつつ、二人とも「格闘技状態」で食いまくる。
ううむ、アラブのホスピタリティー、侮るべからず。
久々に胃も心もたっぷりと満たされた夜ではあった。
食後はお茶とアラブ・コーヒーが飲み放題。
デザートのアラブ風ミルクプリン「マハラベイヤ」も、しっかりとバラ水を使った上品な味わい。
あとでジアードさんと話していて、週末の料金体系は「ベリーダンスだけ見にきて、ビールにおつまみくらいで粘る下品なオヤジがいるから」ということがわかった。
確かに、このエリアは二区画ほど離れると、堂々たる「紅い灯〜青い灯〜」エリアなので、そういうこともあるかもしれない。
また、少量を三種類ほど上品に盛り付けるスタイルは「日本人向けアレンジ」との由。
「ちょっとちょっと、いろいろ出しても、
日本人知らないし慣れてないから、みんなゴミ。もったいないよ」
というわけで、現地経験を懐かしみたい向きは、週末の場合は事前申告しておくと良いかもしれない。
もちろん「アラブ料理を食べてみたい」という「体験派」は、コースがお勧めである。
金土以外は、平常メニューで、前菜は常時30種類はスタンバイさせているそうだ。
今度は週日にまた行こう!
「なにか食べたいものがあったら、電話して言ってね」とのこと。
「モロヘイヤ・スープ作るよ!」
尚、この店にはレバノン産「アラク」がある。
ワインはチュニジア産かモロッコ産が主体だ。
で・・・写真を撮ってこようと思っていたが、気がついたらお腹をポンポンと叩きながらの帰り道。
みなさん、すみません。
以下URLをせめてご参照ください。
http://gourmet.yahoo.co.jp/gourmet/restaurant/Kanto/Kanagawa/guide/0204/U0002131836.html