2007年02月27日

カイロで歯科治療 〜虫歯雑感〜

私が最後に歯医者に行ったのはカイロだった。
以来、詰めものは落ち、たまに怪しい痛みがあっても、なんとなくごまかし続けている。
つくづく考えると恐ろしいから考えずにいたが、あれはもう十年も前のことなのだ。

このときに通ったエジプト人の歯医者さんは、きちんとした人だったと思う。
私自身も含め「エジプトの歯医者」のイメージ、至って悪いと思うのだが、
彼は非常にエジプト的な空気の中ではあったが、きちんとした治療をしてくれたのだ、
と今も信じている。
歯医者さんの治療を批評できるほどの経験も知識もないが、日本で何度か「ヤブ歯医者」
のせいで痛い目も見たし、ひどいボッタクリ治療にあった知人の話を聞いたりもした。
そういったところから考える限りでは、余計なことはしないが手際よく、
説明は的確だが能書きが少ない、このドクターの好感度は高かった。
ほとんど無痛で、通うのもほんの数回ですんだ。

「え、そんなもんで終わり?」
「うん、お互いさっさと終わることは、早くすむほうがラクでしょ」

あとで特に問題も起きなかった、と、いうことは、良いドクターだったのだろう
と思っている。

エジプトの医療技術全般の話を考えれば、確かに開発途上国特有の不安さは付いて回る。
一方で個人のクリニックで処理できるレベルに限れば、海外で研鑚を積んだ腕のいい
ドクターがけっこういるものなのでもある。

さて、私の通ったこのクリニックは、某国大使閣下も通ってきているということで、
現地にしては相当に高級なところだったが、最終的にかかった値段は、
日本で三割負担で受診した場合と大差ないように思えた。

でも、現地にしてはけっこうな値段だったので、なんとなく「高いねえ」と言ったら、
「あのねえ・・・日本はどうだか知らないけどね、ロンドンやらニューヨークやらじゃ、
この倍や三倍じゃ済まないんだよ・・・」と諭されたのを覚えている。
確かにそうかもしれない。

このドクターは、ロンドンでずっと開業していてエジプトに帰る気もなかったのだが、
家族の事情でしばらくカイロに戻ることになり、戻ってみたら案外環境的に悪くないから
こちらで数年前に開業した、ということだった。

「このカイロで、環境的に悪くない・・って?!」
「そう。イギリスでは国の政策で、ほとんどイギリス製の機器しか使えないんだ。
でも、歯科治療の機械といっても色々あって、コレコレの機械はアメリカ製が最高だけど
ナントカはドイツ製が一番で、こんなものなら日本製が世界一、なんていうことは
あるわけでね・・・」
「エジプトで全部揃えられるわけ?」
「うん。まあ関税はかかるしお金もかかるけど、エジプトの場合はイギリスのような
変な拘束がないから、自分の気に入った、世界で一番いい道具を集めて治療ができる。
楽しいよ、カイロのほうが」

これはあくまでドクターが自分で言った話なので、本当のところはわからないのだが、
そういうこともあるのだろうか?
歯科治療機器収集オタクの歯医者?
なにがなにやらわからぬままに、これはドコ製のナニ、アレは・・・と嬉しそうに色々な
機械を見せてくれたのは覚えている。
今となっては、メモくらい取ってくるんだったと後悔するのだが、歯医者でガリガリ
やられた後では無理と言うものだ。
そうじゃないですか?

しかもこのドクター、時間感覚は面白い具合にエジプト的だった。

「時間? ええと、遅くこられる?
ナゼって・・・アナタのは時間がかかりそうだから、最後の予約で気楽にやりたいからさ。
いやでしょ、そういうときに、あとでほかの患者が待ってるのは。
いや、アナタが早い時間がいいならそれにあわせるけど、忙しいんでしょ。
仕事終わったあとなら、気楽じゃない、アナタだって」

どうも最初はセクハラ系を一応疑って、終わりごろの時間に夫に迎えに来てもらうように
していたが、どうも取り越し苦労だったらしい。

(注: ただし、エジプト人ドクターが外国人女性にセクハラをする話は、
実際になくはないので、一応注意するに越したことはない。念のため。)

治療が終わると「一服どう?」と煙草を勧められるのもエジプト的だ。
今はやめたが、当時はワタシもヘビースモーカーだったので、マルボロなぞ吹かしながら
ひとしきり世間話をしたものだった。

別に長話をするわけでもなく、淡々と世間話をして、二本ばかり煙草を吸い終ると
「じゃあ」と腰を上げていた。

今思えばひどく不思議なところもあるのだが、なんだか呑気で贅沢だったなあと思う。

ついでだが、別のブログに、エジプト航空機内での思い出話を書いた。
要するに、飛行機の中での緊急歯痛対策(?)なのだが、場所はエジプト航空だし、
なにかの御参考になるかもしれないので、こちらにも御紹介しておく。

虫歯の思い出 其の一

虫歯の思い出 其の二 〜応急処置の妙案〜

虫歯の思い出 其の三 〜飛行機は鬼門〜


目下の問題は、明日があるさ、とフンフン鼻歌でごまかしてきた、
今この瞬間の歯の治療なのではあるが・・・ああ、歯医者さんに行かなくちゃ。  

Posted by arimaburabura at 21:25Comments(2)TrackBack(0) | Amazon.co.jp | 楽天市場 | ブログ

2006年04月15日

カイロ医療事情 〜鼻血ブー事件〜 【第52話】 後編

(続き)http://arima.livedoor.biz/archives/50433693.htmlより

●鼻血ブー事件

で、私的体験記をひとつ。

鼻血ブー事件が、あるとき勃発した。
ふざけているようだが、あの時は相当深刻だった。

ある日あるとき鼻をかんだら、鼻血が出てきて止まらなくなったのだ。

とりあえずティッシュ(なぜか『ネスカフェ』同様に商標名の『クリネックス』
で定着している)を一箱抱えて、上を向いてじっとしていたが、怖くなるほど
出血が止まらない。

しかし急ぎの見積もりもあったりして「帰りなよ」と周りで騒ぐ同僚を無視し、
鼻にクリネックスの束を押し付けては取り替え、を繰り返して、
とにかく急ぎの仕事だけは片付けた。
上を向いたまま、下に目線だけ落としてPCを操るのは結構苦労だ。
ブラインドタッチなどという洒落た真似ができないので、本人死に物狂いながら
その姿は周囲の笑いを誘う。

終わるころには、何とか出血も収まった。
ちょっとふらふらしたが、とりあえず勤務先と提携している大病院に出かけた。

行ったら、もうすでに待合室は座るところもないありさまである。
仕方ないから、若い男の子の前で貧血で倒れそうになる演技をして、
座席を確保する。
実際、三分当てたティッシュの束、絞れば鮮血が滴りそうなくらいの状態が
数時間続いたのだから(注:話がかなり大きくなっている怖れがあります)、
あながち演技でもなかったのだ。

で、散々待たされた。
確か五時から診療開始で(エジプトの病院は午前中の部と夜の部に分かれて
いることが多い)、五時過ぎには待合室にいたが、やっと病院を出たのが
九時近かったのを覚えている。

で、医者曰く
「ん〜、鼻の中が炎症起こしてるな。薬だしとくから、アレ塗ってコレ飲め」

物理的に血の気を失っていなければ、グーをぶん回したいような見立てだが、
何もいえずに病院の薬局へ・・・と、
「そんな薬ないから、あっちの薬局で買え」ときた。

モーローと歩いて、行き当たった薬局で処方箋を出す。
すると、処置したばかりのはずなのに、また「ブー」が始まるではないか!

「ヤブめ・・・!」という怒りをこらえて(血の気が上がるといけないので)、
取り急ぎ、薬に先駆けてティッシュを二つ買う。

その日は、家に帰って、処方された薬飲んで寝た。


●重要会食で苦しむ

翌日は休みたかったが、夜までびっしりスケジュールが詰まっている。
(↑今の私には、別の人の話のように聞こえる)。

特に夜が重要で、日系企業の総支配人クラスが30名ばかり集まる夕食会。
しかも、私は諸般の事情でゲスト扱いになっていたのだ。
欠席など考えられない。
それなのに、出社したらまた鼻血ブーである。

どうも「酒、タバコ、そしてメシ」がどうもよくないらしい。
タバコはこらえ(数年前やめたが、そのころは煙突状態だった)、食事も控え、
ヤブ処方の薬を願かけて飲み下し、夕食のレストランに向かう。

自分のホテルならば、事情を話してうまくやってもらう手もありだが、
その晩は「韓国料理屋」でしかも「焼肉」ときた。

そのころの私と夫は、当地の狭い日本人村において
「圧倒的割り勘勝ちスーパーカップル」
という名誉ある称号(?)をいただいていた。
ナンボ「あ、じゃあビールを少しいただきまぁす」なんてカワイぶっても、
皆さんの各家庭であれだけ暴れているのだから
「具合でも悪いの?」と言われるのがオチだ。

よく知っている人なら「今日はなんだか鼻血ブーなんですよ〜」
と笑ってごまかせようが、困ったことに与えられた席は新任で着任した、
えらい人ばかり。
どうぞ今後も是非ご贔屓に・・・という、営業活動ができるように、と、
幹事のエライ人が気を利かせてくれていたのだった。
本来なら、まことに粋な計らいなのだが、この日は辛かった。

一生懸命焼肉のお取り分けに励み、ビールは極力飲まず、辛いものは避け・・・
と涙ぐましい努力をしてると、優しい皆さんは
「遠慮しないで、さあ!」
「あなたさっきから食べていないじゃないの」
「ほらほら、これからいろいろお世話になるんですから、一杯ぐっと」
などと仰ってくださる。

ひたすら遠慮していると
「オマエ、みんなにもう正体ばれとんのやで。素直に飲んで食いや!」
などと、回ってきた「古参」で「幹事」で「大阪人」のオッサンが
ガシガシと肩をゆする(ゆすらないでぇ〜〜〜)。

かくして何とかかんとか「ブー」を抑えこんで会食終了。
普通なら、どっかで二次会のパターンにコバンザメのようについていって
「大営業活動(カラオケ大会)」を展開するのだが、もう限界だ。
ブーは秒読み段階である。

そういうわけで、失礼にならないぎりぎりまでこらえて
「本日はお招きありがとうございました、ではこれで・・・」と、ひっそり場を
脱出しようとすると・・・嗚呼、日本人会会長でもある大クライアントが、
目の前に立っているではないか。

「いやいや、先日はどうもありがとう。助かりました。また今度ですね、
XXXXの仕事をね・・・」と、平常時なら食らいついて離さないようなオイシイ話
が始まる・・・が、鼻血ブーは決壊直前、あ、キタ、キタ、キタァァーーーー!

鼻をすすり上げながら、顔は下に向けぬまま、お辞儀して笑顔、という、
変な動作を繰り返す。

「あ、申し訳ありません。私、これからちょっとホテルに戻らないと・・・」
今のお話は、また改めてゆっくりうかがわせてくださいませネ、とかなんとか。
うそつき!!

「あ、お送りしますよ」と唱和する声(皆さん、運転手つきベンツ)は
聞こえなかったフリをして、脱兎のごとくタクシーに飛び乗り、
ティッシュの束を鼻に押し付けた。

家に着くまでの十分ほどの間に、ポケットティッシュが二つ消えてなくなる。
スーツに血が付いたりするとえらいことなので、ハンカチに押し込み包む。
なんかちょっと「お土産もって帰る、オトーサン」の風情。
今思えば、ということだけれど。


●個人のクリニックを探す

結論として、このまま放っておいてもだめだ!
とういうわけで、リビングのソファーに横たわったまま、ちょうど帰ってきた
夫に状況を話す。

相変わらずティッシュ絞れるくらいの鮮血量。
たまげた彼は、知り合いに電話をして
「誰か耳鼻科のいいドクターを知らないかぁぁーーー」とたずねるのだった。

幸い「かなり年だけど、腕はカイロで一番よ」と、知り合いの某ドクターが
一人紹介してくれた。

「連絡先とかはわからないけど、ドコソコの目立つ通り沿いにあるから、
すぐわかるよ」

翌日、早速向かった。
しかし、なんぼその通りを往復しても、それらしいクリニックは見当たらない。

と、瞬間「む?!」と思った。

「あぇら〜!」(あれだ!)
「でも、看板ないよ」
「『ムシュタシュファ(病院)』って、書いてあるよ〜!」

ああ、アラビア文字なんかちょびっと読めたからって、なんの役に立つんやら、
と思っていたら、立派に役に立つもんだ。

しかし・・・さすが英語の看板を出してないだけあって、中は「ややや?!」と
思うほどボロい。
でも、とりあえず先生はすぐ診てくれた。待ってる患者、ゼロだったし。
しかも、マイルドに言えば「相当なご年配」だ。

「あー、鼻のちょっと大きな血管がブッチリ切れちゃったんだね。
この頃すごく乾燥してるし、最近風邪をひいたでしょう?
思いっきり鼻かんでると、そういうことが時々起きるの、カイロでは」

「ホェイ」(Yes)
「まあ、とりあえず、切れた血管、焼ききっちゃおう」
「ホァッ?!」(What?)
「こういうのでね、チュッと焼いちゃうんだ」

と、ドクター、単なるミニハンダ鏝のようなのを、見せてくれる。
相当に年季の入った「お道具」だ。

「ンフアァァ!」(意味なし)

横で立ち会った夫によると、鼻の穴からスゥッと煙が一筋出てきて、
結構面白かったとやら。

「麻酔が切れたら痛むから、痛み止め。あと、抗生剤出しておく。
明後日、一応見せにきて。もう大丈夫だよ」

で、確かに鼻は翌日くらいジンジン痛んだけど、きれいさっぱり治った。
いったいぜんたい、カイロでも一流の評価高いあの大病院の三時間待ちは
なんだったんだ!!!

もうひとつ付け加えると、カイロの産科は結構よいらしい。
日本のように待たされることもないし、丁寧に診てくれるから日本よりいいよ
と、とある友人が言っていた。

エジプトの場合、妊婦は「宝物」なので、周りで寄ってたかって甘やかして
くれるのに、日本に帰ったら周囲が冷たくてさびしい思いをした、という
人もいた。

そんなわけで、個人レベルではそう悪くないと思うが、カイロの場合は
大病院が問題だ、とおもう。

だから、長期滞在をする場合は、必ずきちんと行き届いた医療保険に加入して
おくことをお勧めする。
いざとなったら、保険で海外まで移送してくれるようなものまである。
こういうのは高いのですけれどね。
  
Posted by arimaburabura at 06:53Comments(0)TrackBack(0) | Amazon.co.jp | 楽天市場 | ブログ