2009年09月13日

金子貴一『秘境添乗員』 〜旅も秘境もさまざまなれど〜


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久しぶりの更新。

なんとなくそのままになっていたが、朋友金子貴一くんの著作『秘境添乗員』の感想を、軍事情報に掲載いただいてそれきりになっていたので、一応再録しておく。

中東はすっかり遠くなり、なかなか記事を上げる題材にも巡り合わない。
いっそ止めようかとも思ったのだが、なにかの弾みでまた始まらないとも限らないしなあ・・・とズルズルきている。

中途半端であまり格好のよいことではないと思うのだが、やはりたまになにかあったら記事も上がるかもしれないなあ、インシャアッラー・・・と残してある。


以下、再録分。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

金子貴一クンの新刊が出たのでご紹介したい。

新刊は『秘境添乗員』という。
文芸春秋社の『本の話』というPR誌に2年3カ月連載されたものに、大幅加筆修正を加えたものだ。

彼とのお付き合いはエジプト以来で、20年来の古い仲間である。
交遊の経緯は彼の前作『報道できなかった自衛隊イラク従軍記』の紹介等で触れたので、ご参照いただければ幸いである。

http://arima.livedoor.biz/archives/50754013.html
http://honyarara.livedoor.biz/archives/50922517.html
http://arima.livedoor.biz/archives/50742482.html




金子クンの本領は「人間力」にある。
文才だの語学力だのという、目先の能力を超えたもっと深くて強いパワーだ。
最近この本の書評を書いた某評論家によれば「過剰な人」なのだそうだ。
なるほど、確かに彼は「独特の濃さ」がある人だ。
その濃さは決して嫌味や傲慢につながらない。
通常「濃い人」は、多かれ少なかれそれなりの灰汁を醸し出すものなのだが、
金子クンには良い意味でそれがない。
常に感じられるのは、直裁で明朗かつ知的な「人間力」である。
この部分は公私共に変わらない。

そしてこの本のタイトルを見て「世界の秘境のオモシロ経験談」なんかを
期待するとうっかり肩透かしをくらってしまうだろう。
この本には「世界の秘境四方山話」にありがちな嫌味がまるで無いからだ。

例えばバングラデシュへ、アルジェリアへ、ミャンマーの奥地へ・・・などなど、
確かに彼が自分で企画主催して添乗するツアーの行く先はまことにユニーク。
こうした所謂「秘境」と世間に呼ばれるところに日本人ツアーを引率して行く
「秘境添乗員」の話は前半部に色々と語られていて、その話自体は大変面白い。
旅行好きならば、まずは楽しく読めることだろう。
添乗員としてサービスにこれ徹する金子クンの姿は、単なるツアーコンダクターを
はるかに超えて「ツアーバトラー」と呼ぶにふさわしく、仕事内容も非常に
ハイレベルでプロフェッショナルなものだ。

なにしろ彼は、戦乱のイラク自衛隊派兵の「添乗員」を立派にやり遂げた人間だ。
戦地に赴く自衛隊随行と観光ツアーの添乗を、同じ目線で語ったら
叱られるかもしれないが、結局のところ仕事の要は等しく「グループが無事に
食って寝て安全に過ごせるように心配ること」だと思う。
時に危険も伴う異文化環境で続発するトラブルに柔軟に対処しながら、
全員の安全を確保する。
現地住民との円滑なコミュニケーションの仲介役としての役割も欠かせない。
異文化コーディネーターとしての力量がものを言うのは、どちらも同じことだ。

しかも彼はどの仕事も手を抜かず、誠心誠意こなして手抜きなどしない。
戦地に行く自衛隊だろうが観光に行くツアーだろうが妙な差別化などもしない。
要するに「プロ」なんである。
イラク関連のエピソードにも一章が割かれているので、改めて彼の仕事を
見比べて欲しい。

ちなみに彼は、異文化環境にいなくても根っから添乗員みたいなヒトだ。
例えば一緒に歩いていると「あ、そこにぬかるみがあるから足元に気をつけて〜」
「この先の角を右に曲がりま〜す。そこの赤いポストのあるビルのところね〜」と
万事常時こんな調子。
本人いたって自然体でこうなるのだから、添乗員は天職だろう。

そして話は単なる秘境四方山話だけでは終わらない。
そういう類の秘境ツアー裏話を、もっと低レベルで書き飛ばしたようなひどい本が
結構売れたこともあるから、全巻秘境話で終始した方が案外受けたのかもしれ
ないが、この本はさらに深く潜り込んでいく。

実はこの本の真価は、この「潜り込んだ部分」にあるのだと思う。
話は彼自身の過去に遡り、アメリカに留学した高校時代の経験や、見事に正しい
真のエジプト人となった学生時代を経て、ジャーナリストとなり戦地へ赴き、
そうした経験の中で得たものを一つ一つ丁寧に自分のものにしながら生きてきた
いわば「金子クンの作り方」を読者はリアルに追いかけることになる。

それは昨今巷で言葉としては始終出てくる「異文化コミュニケーション」のプロが
如何にして生まれたか、という物語でもある。

そして話は過去を振り返るだけでなく、未来へ向かう動きも見せてくれるのだ。
辛い話もあるのだが、それを超える前向きさがとても良い。
なにしろこの過程で、彼は結婚をするのである。
いらん話かも知れないが、ワタシより一歳年上の初婚だからかなり遅い。
実はひっそり心配していたが、やっと訪れた春はたいそう美しく暖かいようだ。
なによりのことで、本当に嬉しい。

この『秘境添乗員』は金子貴一クンの集大成。
ちょっと間口を広げすぎた感はなくもないのだが、このカオス的な雑多さも彼の
独特の持ち味と思っていただければ幸いなのである。

しかし例えば本書の中の、特に日本でのクルド難民援護関連の話などは、
掘り下げればかなり面白い話になりそうだし、他にももっと突っ込んで欲しい話が
色々とある。
できることならば「次回作へ続く」となればなによりだ。

全体を通して、異文化と触れ合うときに大事なことはなにかを直接間接に
熱く語りかけてくれる本。
日本のグローバル化が叫ばれる中、現状になにか足りない物を感じる方には特に、
単なる旅行書以上の面白さがあると思う。
間口が広すぎたとは書いたが、内容は通常の単行本の三冊分と言ってよいほど。
中身は濃くて充実しているので、色々な人に是非一読をお勧めしたい。


■もくじ

はじめに

第一章 秘境ツアーへようこそ
 
 「第四世界」バングラデシュの旅
 アルジェリアは治安部隊がエスコート
 ヨルダンで預言者モーセの足跡をたどる
 「中東最大の少数民族」クルドの故郷へ
 ミャンマー、密造酒の村で乾杯
 中国・パキスタン「添乗員殺しツアー」
 平成の遣唐使、西安へ
 ピースボート水先案内人
 インド闇社会と平和運動
 砂漠の遊牧民と仲良くなる方法
 世界一周金融調査団

第二章 僕が秘境添乗員になるまで
 
 ホームステイ先は「社会問題の博物館」
 エジプト留学で究極の異文化体験
 エジプト人になりたい!
 いい加減だよエジプトの運転免許
 エジプト人医師にはご用心
 ロバはビジネスパートナー
 テレビ局のカイロ支局でアルバイト
 イラ・イラ戦争の激戦地へ
 七年ぶりの帰国で「浦島太郎」に
 英語教師はつらいよ
 カイロに死す
 エジプトの救急車は命がけ
 秘境添乗員事始め

第三章 いざ、戦火のイラクへ

 隣国ヨルダンで聞いたバグダッド陥落
 自衛隊の通訳としてイラクへ
 イラクで迎えた初夜
 悩める自衛隊員の本音
 サマワで地権者のアイドルに

第四章 ニッポンの秘境・辺境
 
 国内秘境ツアーを始めた理由
 秘境添乗員、教壇に立つ
 観音霊場巡りはスタンプラリー
 花嫁は秘境の女

あとがき


【090626配信 メールマガジン「軍事情報」(本の紹介)より】



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2008年05月25日

『トルコで私も考えた』最新刊、そして涙の完結!

『トルコで私も考えた』の第5巻が出た。
ユーモラスな絵柄の少女漫画なのだが、トルコ好きの間に根強いファンがいる本だ。



1996年に著者の高橋由佳利さんがトルコへ旅行に出かけ、見るもの聞くものまあ面白い・・・!という情況で始まるのが1996年発行の第一巻。
その後12年の間に、トルコ人男性と結婚し息子が生まれ、家族で日本に渡ってはたまにトルコへ里帰り・・・という生活になっていく。

この辺りの高橋さんの生活の変化も、第一巻から読んでいると感慨深いのだが、あわせてその背景にあるトルコの生活の変化も面白い。

何しろ4ページほどの短いエピソードが、月一回ペースで連載されていくわけなので、一冊分たまるまでが実に長い。
今回の第5巻も首を長くして待った挙句、忘れた頃にひょっこりと出たのだが、なんでもこれが最終巻との由。
実に寂しい話だが、まあ仕方がないですね・・・。

どうもひねくれた私的感覚なのだが、他人の書いた海外旅行記や生活記というものは、書いた本人や関係者にはそこそこ面白いのだが、第三者の目線からは「だからなんだ」とつい思いたくなるものが大半だ。
私の目には少なくともそう映る。
しかし、このシリーズにこと関しては、特に肩肘張らない柔らかな目線で捉えたトルコの衣食住、日常生活、そして周囲のトルコの人々や高橋さんの家族たちの姿が生き生きしていて、独特の世界になっているので何度読み返しても面白い。
飄々としたユーモラスな絵も、実は辺りのディテールがきちんと綿密に書き込まれていて、貴重な記録になっている。

少女漫画かあ・・・と手に取りかねている方がいたら、是非ご一読をオススメする。

品切れの巻が結構あるのだが、短編集なので間が抜けてもなんとか読める。
いい本なので、是非版を重ねていってほしいものだと思うのだけれど。

ちなみに、我が母校の中央アジア史が専門の某教授も絶賛太鼓判のシリーズでもある。
トルコに関心ある方は是非どうぞ。  
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2007年05月12日

某社ガイドブックの思い出 其の一 〜祝!5万アクセス!!〜

おかげさまで5万アクセスを達成した。
せっかく再開したと思えば、諸々の事情でなかなかこちらの更新が出来なくなってしまったというのに、それでも覗きにきてくださる方がいる。
真に本当に、有難いことだと思う。

改めて御礼申し上げます。

このブログに関しては、あまり考え込まずに、ゆるりゆるりと更新していこうと思っているので、お見限りなくたまに覗いていただければ幸甚である。

5万アクセスを記念して、というほどの話でもないのだが、数日前にひょっこりと
とても懐かしい本が出てきた。

本もうシリーズ自体が無くなってしまったのだが、
一時期JTBの出版事業局が『フリーダム 自遊自在』という
『地球の歩き方』のような別シリーズを出していた。
このシリーズの『ギリシア・トルコ・エジプト』が
1992年に初めて刊行されたのだが、
この本のエジプト分は実は私が書いたのだった。

もう絶版だが、一応アマゾンで古書扱いで出てはいるらしい。

ギリシア・トルコ・エジプト自遊自在
(1,994年版)
ギリシア・トルコ・エジプト 自遊自在
(1997年版)

これも一度は改版がはいっているので、私の出したものよりはかなりマシになっているはずだが、どんな具合に変わったか興味もあって、恥ずかしながら買い求めてみた。
ただいま手元に着くのを待っている。
この辺のご報告は改めて。

この本の取材は1991年の6月に行った。
まったくもって馬鹿みたいだが、なんだかスケジュールの関係と行きがかりで、
よりによって一番熱暑激しい頃に、まるまる一ヶ月、炎天下の砂漠なんぞを駆け回って
いたのだ。
若いというのは素晴らしいことだなあ、と、最近中年らしくすっかり体力の落ちた
我が身のひ弱さをしみじみ思う。
それとともに、こういうことを見境なく敢行する馬鹿さ加減を、呆れつつ懐かしく思う。
体力の要る馬鹿なことは、そんなわけで若い頃にやりつくしたはずだが、何故か未だに
時々似たような状況に陥るのは、学習能力の無さ故であろうか。
ここまで凄まじいことは、どう頑張ってもやりこなせないので、あっちこっちで上手く
手を抜いたり、こっそり逃げて他所に押し付けたり、ということになるのだが、
これが「年の功」だとしたらちょっと情けないかもしれない。

エネルギーが無駄に有り余っているので、ちょっと考えれば楽が出来るところを、
遮二無二無理矢理遠回り敢行(気付かぬまま)、などということの繰り返しだ。
でも、この「無駄」の過程で見たこと聞いたこと感じたことが、実は強烈な印象とともに
記憶に焼きついていることが良くある。
ワカサはヴァカさ、とは思うものの、最近は強烈で鮮烈な感覚を覚えることが本当に減ってしまった。

ヴァカもそれなりに、いいところはあるのだろう。

この本は、勢いだけで取材して、勢いだけで書きなぐったものなので、94年版を出すに
あたっては、細かいフォローや追加取材をする羽目に落ちた人たちが、結構大変な思いを
したらしい。
実はこの仕事の焼き直しは、初めてエジプトに行くきっかけになった、昔の職場の
後輩に押し付けられたのだ。
その後輩が、私がその張本人と知らずに当時の諸々の面倒ごとの愚痴を語るのを、
背中にうっすら汗をかきながら聞いてあげたことがある。
何故か突然に気前よくビールなんかおごってしまう、私の挙動に不審を覚えられた結果、
事態が発覚してお互いかなり気まずい思いをしたものだった。

まあ、ひとりで突貫状態でやっつけたので、細かいところが相当荒っぽかったとは思う。
でも、均質性は無いながらも、改めて読むと結構面白い取材もやっているのだ。
手前味噌だが。

ついでにひっそり付け加えると、写真も自分で撮ったのである。
出版社の担当者に「写真もお願いします」と言われて、

「カメラ、持ってないですが」

と明るく答えたものだった(・・・嗚呼!)。
呆れて絶句しながら、担当者は「これ、あげます」と、当時でも旧式なバカチョンを
一台どこかから引っ張り出してきて支給してくれたものだ。

ところで、この本の仕事を回してくれたのは、他ならぬ「金子貴一」だった。

JTBから『地球の歩き方』のライターだったタカに「こういう本を企画しているけれど
誰かライターの心当たりはいないか?」という問い合わせがはいったのだ。
さすがに競合する同系統の本のライター本人は使えないので、という実に図々しい
問い合わせなのだが、タカの偉いところはそこでウダウダ言わず、即座に友達を紹介して
しまうところだろう。

そんなわけで、不肖ワタクシは「地球の歩き方の取材に同行して、アシスタントであった」という理由をもって(!)、この本をやることになった。

こうしてみると、タカには昔から色々世話になって面倒をかけているのである。

この本に絡む思い出話が、そうこうするうちにどっと沸いてきたので、何回かに分けて
ご紹介しようかと思う。

(つづく)


*補足:
本記事の中で「バカチョン(カメラ)」というレトロな用語を使ったところ、いくつか「差別用語では?」という御指摘をいただいた。

これは、所謂「インスタントカメラ」や「コンパクトカメラ」のことで、私がまだ小学生くらいのころに出てきたオートフォーカスのカメラを指す言葉だ。

ただ、これがたまたま朝鮮の人への侮蔑後と同音異義である、ということで自粛ムードが
高まり、その後に追いかけデジカメの時代となって、すっかり「死語」となっている。

しかし、この「バカチョン」の「ちょん」に関しては、江戸時代からある「ちょんまげ」
「ちょん切る」の「ちょん」で、「短い」→「足りない」→「頭が悪い」という意味合いになった言葉だ。
「チョンの間」などという言葉も、遊郭で使われていたが、歌舞伎用語が元らしい。
明治時代初期に『西洋道中膝栗毛(*)』というオモシロ本が出て、ここに「馬鹿でも、ちょんでも、野呂間でも・・・」という表現が出てくるところがよく引っ張り出される。
だから、差別用語云々以前に「馬鹿でもちょんでも」というのは、定型表現として成立していたわけだ。

*注:『東海道中膝栗毛』のパロディで、弥次さん北さんの孫がロンドンの万国博覧会に行くという内容の本らしい。読んでみたいな(笑)

こんなことクダクダ書き連ねるならば、素直に記事を書き換えたほうが早いし、どっちみち
上品な言葉でもないのだが、とりあえず上記のような言葉であることだけ、
為念補足しておく。

私は、上品でも下品でも、日本の古い言葉は好きなのである。

でも、程度は知れているので、不見識の御指摘は今後も歓迎します。
本当です。


追伸:
金子貴一の名著『報道できなかった自衛隊イラク従軍記』は、引き続き絶賛発売中!
未読の方は、是非どうぞ!!

報道できなかった自衛隊イラク従軍記
  
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2007年03月29日

金子貴一と私 〜『軍事情報』配信の書評〜

『報道できなかった自衛隊イラク従軍記』を先日もブログ上でご紹介したが、その後『軍事情報』のメールマガジン用に
著者本人との交流や思い出話などを書かせていただいた。

こちらにご紹介したいと思う。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

まずは、著者の金子貴一ことタカの思い出話から。

タカと初めて会ったのは、カイロに仕事で移り住んで半年余りも経った頃だったろうか。当時彼は既に、一度カイロを引き払っていたのだが、ガイドブックの取材でエジプトに来ていたのである。

知人の家で飲み会があって、わいのわいのと飲んだくれていた時、
「だからさあ、誰か一緒に来てくれないかなあ・・・」
と、彼が突然言ったのだ。

いや、酔っ払っていたから私の耳には突然に聞こえただけなのだが、話が途中で見えなかったから「何のハナシ?」と聞いてみれば、紅海のほうに取材に出かける、という。

スエズからハルガダに向かって紅海沿いに南上すると、少し砂漠のほうに引っ込んだところに世界最古の修道院があって、そこに泊りがけで取材に行く、宿泊の許可は取ったのだそうだ。

「通常交通機関はないところなのだが、今回はスエズから車を一台チャーターして行こうと思う。
その後は、ハルガダまで行ってさらにあれこれ取材をして、戻ってくるんだよ・・・」

「聖アントニウス修道院」という世界最古の修道院の存在を、私はそこで初めて知った(一応、以前の記事でごく簡単に触れたことがある)。

アゴアシは持つから、くっついてきて手伝ってくれる人はいないかねえ、という話に、
酔った勢いもあって、私は「ハイ」と元気に手をあげた。

いい中年になった今、しみじみと思い返せば、なんでも酔った勢いで話を決めてしまえる
年頃だった。
例え酔っていなくても勢いだけで、面白そうなものにはなんでも飛びついていた当時は、
まだ20代半ばだ。
若さとヴァカさが紙一重の、良くも悪しくも楽しい時代である。

これは『地球の歩き方 エジプト編』の取材だった。
タカの処女作でもある。

特に潤沢な資金があったわけでもないし、一泊500円ほどのホテルを根城にするバックパッカーが、オンボロといえども車を一台チャーターして、メジャーでもないポイントを目指すとは思えないから、これは純粋にタカのジャーナリストらしい興味からでた取材だったのだと思う。

で、助手の私は何をやるかといえば、アレはなによコレはなによ、あの人ナニしゃべってんのよ、と取材者を通訳にガイドにとこき使い、レストラン選定には無闇と熱意を燃やし(別に高級な小奇麗なところでなくても一向構わないが、食べ物に妙なこだわりが強いのは昔からなのだ)、その他なにかと彼の気持ちを「和ませる」ことに終始したのだった。

まあ、一人では荷物を置いて周辺を探りに身軽に出ることもできないし、誰であろうと人間が一人いればよい、という発想で、そういうヘンテコリンな同行者を気楽に連れて歩いてくれたのだから、タカも呑気なヤツだと改めて思う。

ただ、食べ物に関しては至ってアッサリした男なので、私の妙なこだわりには閉口した
らしい。
彼には珍しく、いまだにたまに思い出しては「まったくねえ・・・」と呟くことがある。

そんなこんなで、交流は続き、私の結婚式ではカメラマンまで務めてくれた。
これは我が母には不評プンプンで、
「お嫁さん(私のことだ)が、まるっきりカワイク撮れてないっ!」と、あとで激しい
ブーイングが出たものだった。

花嫁に関しては、ひたすらドキュメンタリータッチで、やれ忘れ物の処理だ、
記念写真の指示だ・・・とウェディングドレスで仕切りまくる姿を克明に追ってくれている。

「ウソでいいから、ソフトフォーカスに優しげな風情の「花嫁写真」を
一枚くらい残してくれてもよかろーが!」

と、改めて思わないでもないが、まあ仕方があるまい。頼んだのは私だ。
それにしては、花婿だけはそれらしい「斜め横顔ポートレイト」などが残っているのは
不思議でならないのだけれどね。
まあ、いまさら責めまい。

かくのごとく、金子貴一は実に面倒見がよく、フットワークは軽く、寛容にして温厚、
しかしいい具合に、妙なところでいい加減な男である。
真面目ではあるが、生真面目クソ真面目ではない、ともいえる。

そして彼がひとたびアラビア語をしゃべりだすと、辺りが瞬間でカイロのホコリ臭い
街角に変わる。
身振り、手ぶり、口ぶりのすべてが、実に見事にエジプト人なのだ。
だから、彼とアラブ料理屋でメシなど食うと、なんとも実に楽しい。

ある晩ある時、そんな調子で食事をしていたら、
「サマワにいるときにさあ」
などと口走ったので、ナンダナンダと首を傾げたところ、
「自衛隊と一緒に通訳で行っていたんだ」と、いとも簡単に言う。
「あ〜、でも、民間人が一緒だったなんて今マスコミに知れると大変だから、
間違っても変なところで書いたりしゃべったりしないでね」

ウン、ワカッタと言ったついでに、聞いてみた。

「・・・ところで、タカって、フスハー(正則アラビア語)できたっけ・・・?」
「できないよ」
「・・・イラク方言、わかったっけ・・・」
「わかるわけないじゃん」
「じゃあ、いったいどうやって・・・」
「ええっとねえ、まず相手に『僕、イラク方言わかんないし、フスハーもできないから、
エジプト方言でしゃべってちょうだいね』って頼んじゃうと、向こうが適当に調子あわせてくれるんだよね」

以上、あっけらかんと笑って言っていたが、実はやはり大変だったのだろうなあ、と
思ってはいた。
そして、今回上梓された従軍記を読んで、よくもまあ軽く言ったもんだと、なんだか
頭痛がしてきたくらいである。

それにしても、通訳の人選にあたって、自衛隊もかなり慎重にいろいろ調査したはず
なのだが、敢えて彼を選んだプロセスにはちょっと興味がある。

アラビア語がいくら難解だと言ってみても、それを流暢にこなすアラブ世界の専門家は、
巷に決して少なくはない。
肩書きや表向きの経歴、という部分では、この金子貴一よりもむしろ「適任に見える」
候補者がいたはずだ。

しかし敢えて彼が選任されたのは、言ってみれば「人間力」のようなところをきちんと
評価されたが故だろう、と私は思う。

マスコミも世論も「イラク派兵問題」には相当喧しく騒ぎたてていた、あの当時の情勢下、
よくこの判断が下せたものだな、とつくづく思う。

そして、その期待に応えて、立派に任務をやり遂げて戻ってきたタカも、実に誠に
立派な男である。

書籍自体については、既に拙ブログでいろいろと書いたので、そちらをご参照いただきたい。

だが、この一冊は単なる民間ジャーナリストの従軍記に留まらないことだけは
お伝えしたい。
異文化の狭間に立って何事かを調整する立場になったとき、どんな資質と発想と感性が
必要とされるか?
それが随所に読み取れる、実に秀逸な「異文化対応マニュアル」である。

実に個人的な感慨ばかりの「推薦の辞」となったが、彼の人となりを想像する一助になれば幸いだ。

そんなわけで、この一冊は彼がいままでの人生を通じて、ひたすら前向きに、
他の人間にはなかなかできないスタンスで努力し、学んできたことのひとつの集大成に
なっている。

これから先へ、そしてさらに高きへと、まだまだ進んでいくのは間違いないと思うだけに、
ジャーナリスト金子貴一のターニングポイントとなる本書を、まずは皆様に御一読いただきたい、と、切に願う次第である。

(アリーマ山口)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

上記に『軍事情報』編集主幹のエンリケ殿下のコメントもついて配信された。

配信分には、目次や殿下独自の目線でのコメントなどもあるので、是非こちらもあわせてご参照いただければ幸いだ。

報道できなかった自衛隊イラク従軍記
  
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2007年03月12日

『報道できなかった自衛隊イラク従軍記』

報道できなかった自衛隊イラク従軍記


以前『世界の宗教 知れば知るほど』という本の共著者として御紹介した、友人の金子貴一が、実に良い本を出した。
これは拙ブログの読者の方に、是非読んでいただきたい本だとしみじみ思うので、
力をこめて御紹介する。

彼自身のサイトで、実にあっさりと「極秘経歴」として「実は、私は2004年2月3日から3月24日まで、陸上自衛隊のアラビア語通訳として、イラクのサマワに滞在して、陸自の方々と苦楽を共にしておりました」などと語られているのだが、これがどれほどのことかは想像に余りある。
そのレポートがついに出たのだ。

民間人が海外の戦地に同行し、業務支援という形で現地での活動に従事する記録、
というだけで、非常に貴重なものだと思う。
ジャーナリストが「記者としての目線」「外からの目線」で書いた本や、自衛隊関係者乃至はシンパが、「関係者の目線」「内からの目線」で発表した記録などは、相当数出ていて、これはこれで価値ある記録だが、金子が今回発表した記録は、そのどちらでもない中立に立つものの目線からのものとなる。
本書の中で彼は自分を「異文化コーディネーター」と位置づけているのだが、その立ち位置は
正しく「一般世間の人々」と「自衛隊関係者」の中間点にあり、また同時に「日本的発想」と「アラブ的発想」の中間点にもある。
同時に、欧米的な発想も状況次第では必要とされる。

そのすべてを肌身で理解したうえで、対面する二つの文化圏の人間が歩み寄り理解できる
場と状況を「通訳」という立場を介して作り上げるわけだ。
言語能力も当然のことながら、人間性や感性精神の柔軟さが必須となるわけで、しかもその上に重ねて「戦地での心身ともに過酷な生活」という環境までがついてくる。
強靭な体力と精神力が必要とされるうえに、文字通り「命懸け」なのでもある。
その上、彼の調整の結果次第では、人命や国事を左右する結果に至りかねない。
まあなんとも大変な仕事を引き受けたものだ、と改めて感嘆してしまう。
そして、本書には特に詳しく出てこないのだが、あえて金子貴一を選んで同行した、自衛隊の判断のプロセスが興味深い。
「やるじゃないか、自衛隊!」と、話を聞いたときは内心拍手を送ったものだった。

私自身も、こんな苛烈な状況には程遠いながらも、一応それなりに対面する異文化の調整役のような立場に過去立った経験はあるので、読んでいるだけで気が遠くなりそうだった。
そういう、現場にいたら失神ものの場面を、彼はどこかしらユーモラスなほど淡々と、情緒的にも感傷的にもならず、しかし前向きな情熱を持って綴っていく。
彼の人柄ゆえの筆致なのだが、読みやすくわかりやすく、非常に楽しくすらある。
実際、面白い楽しいエピソードもいろいろ織り込まれていて、読んでいて思わず爆笑するシーンもあった。

おそらくこの本は「貴重な従軍ルポ」という形で受け入れられ、評価されていくと思う。
イラク情勢や自衛隊、軍事といったことに関心のある人々は、確実に手にとって読む一冊となるに違いない。

ついでに加えれば、元々大学で文化人類学を専攻して「アラブの部族研究」を専門にしていただけに、サマワ周辺の諸部族の状況や生活文化、といった情報も多彩に盛り込まれているので、アラブ圏の地域研究をしている読者にも貴重な情報は多いと思う。

しかし敢えて私は、この本をそういうカテゴリーに押し込んでほしくないのである。
軍事関係、アラブ学関係といったフィルターをすべて捨て去っても、この本は「異文化対応マニュアル」として抜群に優れていると思うからだ。
自分の背景にある文化と異なるものとぶつかったときに、どうとらえ、どのように行動するべきか、というヒントが、この本には様々な形で描かれている。
これから世界を目指す若い読者に、また「異文化コミュニケーション」という言葉に何らかの引っ掛かりを感じる読者に、是非とも一読をお薦めする次第だ。

別に身びいきでなく、久しぶりに色々な意味で面白い良い本を読んだ。
そしてこれは完全な身びいきだが、その作者が「たまたま」朋友である金子貴一だったことに、我がことのような嬉しさをしみじみ感じるものである。

(ライブドア用)

報道できなかった自衛隊イラク従軍記
  • 著:金子 貴一
  • 出版社:学研
  • 定価:1890円
livedoor BOOKS
書誌データ / 書評を書く


  
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2006年09月28日

『イスラーム世界事典』

相も変わらず『岩波 イスラーム辞典』と『平凡社 イスラーム事典』には
お世話になっている。
イスラームが絡む話になると手元から離せない。

この二冊にプラス、最近たまに覗いてみる本がある。

『イスラーム世界事典』
明石書店

 
こちらは、項目数も詳細さも上記二冊と比較になるものではないのだが、
わかりやすく噛み砕いた話が載っているので、事典というよりは読み物として
面白いかもしれない。

白黒だが写真も豊富で「生きているイスラームに焦点をおいた」と編集方針に
明記されているように、古い事象よりは現在に目が向いている、というところ
がユニークだ。
ぱらぱらと捲って読んでいると面白い。

高額な事典までは手が出なくても、イスラームにまつわる諸々のことに
関心のある方に、お薦めする。
2900円と、ボリュームや内容を考えれば安価でもある。

岩波イスラーム辞典


新イスラム事典


  
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2006年09月03日

田中真知さんとの邂逅

ふとしたことで、蚕の幼虫を食べる機会があり(というか、食べる羽目に落ち)、
虫喰い譚を思い巡らせていたら、カイロで御縁のあった田中真知さんのお話を
思い出した。

思いついて検索をかけたら、以下のブログをやっておられるのだった。

『王様の耳そうじ』http://earclean.cocolog-nifty.com/

田中さんの話を出したので、記事をトラックバックしてコメントを入れたら、
有り難くもアフリカの「虫食」について、なかなかリアルな解説をコメントに
書き込んでくださった。

http://arima.livedoor.biz/archives/50582285.html

こちらは、本文はともかく、是非コメントのほうをご参照いただきたい。
・・・関心のある方は、ということだけれど。

御著書は以前にも御紹介したが、飄々としたスタンスと柔らかな視線が魅力的だ。
お薦めする。

アフリカ旅物語 中南部編


アフリカ旅物語〈北東部編〉


ある夜、ピラミッドで



  
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2006年08月07日

中東・地中海料理特集@Elle a table


先日、レバノン料理の会を行った。

アラブの料理というのは、本来が大勢でわいわいと食べるものだと思っているし、実際そうしたほうが、楽しくおいしく食べられるものが多いのだ。
最低十名いないと調整出来ない、というものもある。

つまるところ、自分の食い意地一本やりで会を企画したのだが、まず驚いたのが最初に某SNSで告知を上げたときの反応だった。

「こんな企画に関心のある人は?」と投げかけたところ、各所から総計100ほどのレスポンスが出たのだ。
正直言って、驚いた。

こういう場合、半分は「なんとなく」としても、残り半分はかなり乗り気と見て良い。
そして日程や時間などをレストランや私の都合とすりあわせて、たぶん半分くらいの人が諸般の事情で残念ながら・・・ということになりそうだ、と思ったら、本当にきっかり25名の人々が、遠くは栃木や静岡から、横浜での本会に参加してくださった次第。

トルコ料理は随分知られてきたが、そろそろアラブ料理にもかなり関心が集まっているらしい。参加希望のレスポンスが、7割がた女性からで、当日は女性2対男性1くらいの比率だったことを考えると、若い女性の「食」への関心が、かなりこちらの方面に向いていることが強く感じられる。

そんな風に「へぇ」と感心してしばしのち、中東・地中海料理の特集が、Elle系のお洒落な女性誌から出た。

正確には"Elle a table"という。
「お洒落な食生活の高級誌」というイメージだろうか。

取り上げられているのは、トルコ、ギリシャ、レバノン(!)、エジプト、チュニジア、モロッコ。
「地中海特集」といいながら実はどっぷりと「中東」だ。

Elle a table (エル・ア・ターブル) 2006年 09月号 [雑誌]

内容は上品でお洒落な女性誌だけに、それに沿ったイメージになっているのだが、上がっている料理の種類や、イメージなどお洒落なりに現地とそうずれておらず、資料としては面白い一冊。

レシピがカード式になって24枚ついている、というのも便利だ。
「女性がお洒落にお料理できる」というのもひとつだが、単に写真だけでなく原材料や作り方というのは、料理や現地の食生活をイメージするのに欠かせない情報だからだ。
このあたりは、さすが女性の視点で作った雑誌だ、と感心する。
男性が中東の料理、などと言い出すと、このあたりの情報がスッポリ抜けてきて、
結局のところ「なんだかエキゾチックなイメージ」で終わってそれ以上進まないのだ。

写真がいかにも美味しそうで、すっかり頭の中が「あれを食べたい、これを食べたい!」で一杯になってしまった。

そんなわけで、中東の食文化に関心をお持ちの向きには、オススメ。
アカデミックなところから、単なる食い意地っ張りまでカバーして、爽やかな地中海近辺の風景で気持ちも和む。

9月号で発売したばかりなので、売りきれる前に一冊お手元にどうぞ。


  
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2006年07月31日

『論座』7月号 朝日新聞社

皆様、申し訳ありません・・・と、とりあえずお詫びから。

諸般の事情で『中東ぶらぶら』が、連載、ブログともに中断しております。
事情は・・・本当に「諸般」としかいえないものです・・・(一種の夏バテ?)

しかし、復活する気持ちではおりますので、どうぞお許しを・・・。

最近はすっかり横浜界隈のディープな飲食関係に首まで漬かっておりまして、これはこれで「生の街の匂い」が面白く、ついついそちらにエネルギーが傾きがち、というのが正直なところでしょうか?
7年以上住んで、やっとのことで横浜の面白さがわかってきたような気がします。

考えて見れば、カイロの時もそうだったように思います。

しかし、ナニがどこでつながるものやらわからないもので、中東関係で案外面白い話の載っているものを見せてもらったので、ご報告です。

場所は、横浜は野毛の、某飲み屋さん。

なんとこの『論座』7月号は、

メインテーマ: 『私と愛国心』(石破茂氏もコメントを寄せておられます)
サブテーマ:  『駐日大使にきく中東情勢』(イラク・エジプト・トルコ・イスラエル・パレスチナの各国駐日大使のコメント→基本的に「フツー」ですが、時に「ほぉ」ということも書いてあります)

と、硬派な関心を呼ぶものではありました。

でも、じゃあなんでこのような雑誌が「ワタシが普段出入りするようなしょうもない飲み屋」に置いてあったか、といえば、このような立派な記事の隙間に何故か

『横浜・野毛の祭りは終わらない 大道芸の20年』(by 平岡正明氏・・・)

という記事がこっそり挟まっていたからなのでした。

「ほれ」と飲みながら渡されて、上記記事を読み、「へぇ〜」といいつつ表紙をみて、思わず笑ってしまった不謹慎をお許しくださいまし。

ワタクシにとっては、一粒で三度美味しい、ということで、バックナンバーを取り寄せました。

こういうことがあると、私はまだまだ「中東とアラブ」に関わっていくべきなのだな、と思ってしまいます、インシャアッラー。

中東の話は、まだ書いていきたいと思っています。
たまにこちらのブログも、どうぞ覗いてやってくださいまし。

『横浜ほにゃらら日記』は、本人思いがけぬことに「横浜特選ブログ」にまでなってしまいました。
あれあれ、おやまあ、と言っているうちに、最初はどうも馴染めなかったハマの空気が体中に染み込んでいるような気がします。

連載については、とりあえずエジプトを中心に一通り「一般的な状況」はお伝えできたか、と感じてはおりますが、私の感じていない部分で「あれは?!」「これは?!」ということがあれば、いつでもお気軽にコメントを入れてくださいまし。

メールマガジンのほうも、また新たに視点を変えたオハナシを、と思っておりますし、相変わらずの「ぶらぶら話」もまわってきましょうが、ご笑覧いただけましたら幸いです。

以上、恐縮ながら「言いワケ」でございました。
決して「休止宣言」やら「終了宣言」ではありません。

まだまだ、私のできることはありそうに思えますので。

改めまして、今後とも引き続きよろしくお願い申し上げます。


  
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2006年07月04日

奴隷にされる子供たち「ニュースのお時間です」

『奴隷にされた少女 メンデ』という本がある。
メンデ―奴隷にされた少女

スーダン中部に生まれたメンデという少女が、12歳で村を襲撃され、拉致され、暴行を受け、そして首都カルツームの金持ちの家に売られて「イエビト(名前をつける価値もない娘)」と呼ばれ、家に半監禁状態でした働きを強いられる、という、読んでいるだけで、怒りの余り握った拳が震えてくるような話だ。

その後、その家族の親戚がロンドンでした働きが必要である、とロンドンに移され、同じような生活を強いられる。

これはスーダンの話だが、エジプト人でも同じケースがあることが報道された。
幼い少女がエジプト人の家族から引き離され、アメリカでエジプト人の金持ちで奴隷労働を強いられていた、というニュースだ。

詳細は以下を。
livedoor ニュース


開発途上国には良くある、といってしまうと実も蓋もないが、同国人同士での差別問題というものは、国内で完結するだけに外になかなか漏れてこない。
「階級意識」というものが幸いにほとんど存在しない日本では、なかなか理解しがたい現象かもしれないが、実は同国人同士の階級差別意識は、エジプトやスーダンに限らずかなり根深く存在する闇である。

「カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の中東問題専門家は、西側の考えでは、子どもをメードとして奴隷扱いにすることは、とうてい許容されないと指摘」とか、ヌルいことが書かれているが、西だろうが東だろうが、こんなことが許されていいはずがない。

人権保護団体など、もちろん動いている組織はあるが、なかなか表に出てきにくい問題だ。これをきっかけに「闇」がもっと追求されることを、心から願う。
  
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2006年06月23日

訂正『世界の宗教』

湿気状態で、またエラーを飛ばしてしまいました。
ご紹介した金子貴一氏の『世界の宗教』ですが、著者から訂正が・・・すまぬ、金子様。

1.「世界の宗教」は、今年に入ってから書き出し4月まで執筆に没頭していました。

2.実際の執筆者は二名で、実質、1/4を書いています。

3.『本の話』は、文藝春秋社刊です。

みなさん、再々申し訳ありません・・・。
  
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金子貴一氏の新刊

朋友にしてジャーナリストの金子貴一氏が共著で本を出した。
昨年一年、相当な時間と労力をかけた一冊だということだ。

http://diary.jp.aol.com/v8puyc3tkc/34.html

彼は執筆者の一人で、全体の五分の一を執筆している。


『世界の宗教 知れば知るほど』
実業之日本社(刊)

無茶な本だが、よくぞまとめた、と敬意を表したい。
世界三大宗教のキリスト教、イスラム教、仏教はもちろん、ヒンドゥー教、
儒教に道教、神道、ゾロアスター教・・・と、268ページの本に概略概要、
そして現代における状況が、コンパクトかつ図表など多用してわかりやすく
まとめられている。

特にイスラム教に関しては、金子氏で無ければ書けない「現状」のレポートも
あり、読み応えがある。
四半世紀、イスラーム世界ときっちり対峙し、最近ではアフガニスタンにも
イラクにも、フリーのジャーナリストとして取材に赴いた、この彼だからこそ
これが書ける、という部分もある。

巻末にしっかりした索引がつき、各ページの下には「一口メモ」として様々な
短い関連情報も添えられている。

事典の類ではないので、あくまで概要概観ではあるが、これだけの多くの宗教の
基礎情報を一冊の本でまとめてみると、突っ込んだ専門書とはまた違う視点で
宗教を見られる。

中身はみっちりつまっているから、1400円は実にオトクだと思う。
是非一冊どうぞ。

尚、金子氏は新潮社の『本の話』という冊子に『秘境添乗員』という
楽しいエッセイも連載中。本屋さんの店頭などで見かけたら、覗いてみて下さ
い。
  
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2006年06月16日

イスラム世界の人生相談

イスラム世界の人生相談―ニュースの裏側がよくわかる』西野正巳(編訳)>


またひとつ、イスラーム関連の好著が出た。

ひとつの国の世相を見るのに、確かに新聞雑誌などの「人生相談欄」は
実に有効だろうと思う。
そこを思いついたアイデアがまず拍手ものだが、これがただの悪ふざけでなく、
非常にまじめで、かつどこかユーモアのある内容に出来上がったのは、ひとえに
著者の力量と、イスラーム世界に対する偏らない理解と、そして愛情ゆえだろう
と思う。

まだ30歳そこそこの若い学究の方だそうだが、是非がんばって欲しいと思う。

下手な解説書の類より、実にイスラームの生活実態がわかりやすく理解できる。
また、随所の解説も適切なので、イスラームに関心のある方には、是非一冊
お手元に置いていただきたい一冊だ。

⇒ http://tinyurl.com/gocevイスラム世界の人生相談  
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2006年05月27日

オススメ本

『村田エフェンディ滞土録』
梨木香歩(著) 角川書店

19世紀末のトルコの空気が伝わってくる佳作。
あくまで小説ですが、一読をお勧めいたします。



『山川世界史総合図録』
 
すみません、高校生って、すごく高度な知識に触れているんですね・・・。
思いつきで手元においてみたら、これが実に役に立ちます。
さすが「お受験」というターゲットにむけて、きっちりと横並びに整理された
年表や図録は、眺めていると思わぬ発見があります。
  
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2006年05月13日

中東のジョーク満載、オススメ本

『ジョークでわかるイスラム社会』早坂隆(著)

エジプトの話には触れていないが、実にバリエーション豊かな楽しいジョークが山盛り。それにとどまらず、イスラームの習慣や、生活、歴史など、話題は多肢にわたって、ちょっとした「中東イスラーム入門」にもなっている。

この一冊は、本当にお勧めだ。
イスラームや中東に関心があるなら、是非一冊お手元に、と思う。


『イラン・ジョーク集―笑いは世界をつなぐ』モクタリ・ダビッド(著)
 
著者は在日20年。イランは私自身あまりイメージのない国なので、拙稿ではほとんど触れていない(というか触れられない)が、この国のジョークもなかなか凝っている。

著者の在日歴が長いからなのかもしれないが、イラン人のメンタリティーというのは一種独特らしい。いわゆるアラブ圏とは、また違うフィーリングを感じるところが多々ある。

こちらもかなりキワドイ話が満載。
イランの人々が、非常に身近に感じられる一冊だ。  
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2006年04月07日

3/30配信『第50号』で紹介したアガサ・クリスティーの著書

『春にして君を離れ』



『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』


なお、翻訳もすばらしいものである、と一言申しそえておきます。

ところで、書き忘れていましたが、ブログトップに出てくる「豪華ホテル」は、エジプトはアスワンの『カタラクトホテル』。
アガサも泊まって、ここで『ナイル殺人事件』を執筆したとやら。

「アガサ・クリスティー・スイート」なんて部屋がまだあって、空いてさえいれば見せてもらえます。見るだけタダ!
なお、ウィンストン・チャーチルご宿泊の「ウィンストン・チャーチル・スイート」もあります。やはり空いていれば見学可。

このホテル自体が文化財みたいなものなので、もしアスワンにいかれたら、是非旧館のテラスでお茶だけでも飲んでみてください。
テラスからの夕陽も、スライドショーでご紹介しております。  
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2006年04月02日

『春にして君を離れ』

元となったシェイクスピアのソネットは以下参照。

From you have I been absent in the spring,
When proud-pied April dress'd in all his trim
Hath put a spirit of youth in every thing,
That heavy Saturn laugh'd and leap'd with him.
Yet nor the lays of birds nor the sweet smell
Of different flowers in odour and in hue
Could make me any summer's story tell,
Or from their proud lap pluck them where they grew;
Nor did I wonder at the lily's white,
Nor praise the deep vermilion in the rose;
They were but sweet, but figures of delight,
Drawn after you, you pattern of all those.
Yet seem'd it winter still, and, you away,
As with your shadow I with these did play:

現代語訳は岩波文庫から『ソネット集』高松雄一(訳)が出ている。

文語訳が入手できるところをご存知の方(私の買える値段で)、
お知らせいただければ幸いです。

本当は自分で訳をつけようかと思ったけど、畏れ多いので止めたのでした。  
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2006年03月21日

An Account of the Manners and Customs of the Modern Egyptians

An Account of the Manners and Customs of the Modern Egyptians (At Last--The Definitive Edition of the Classic)
最近面白い本を見つけました。
事典並の代物なので、座ってじっと読もうというのでもないですが、図版も
多く、眺めて拾い読みしているだけで結構楽しい本です。


"An Account of the Manners and Customs of the Modern Egyptian"
by Edward William Lane


『現代エジプト人の風習と習慣』とでも訳すんでしょうか。
現代といってもこれは1860年ごろの話。
それだけに、書き取られた図版や著者の観察は興味深いものがあります。
専門家の間では良く知られた本とのことです。
  
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2006年03月06日

北欧関連の参考図書

『北欧』新潮社

北欧の本は、デザインや観光関連が主であって、各国比較論というのが意外にない。
そんな中で、この一冊は大変参考になった。一冊あれば、とりあえず北欧の全容が見える。
ちょっとした事典代わりにも使える一冊だ。




物語 北欧の歴史―モデル国家の生成
武田龍夫(著)中公新書

歴史的発祥から現代へ至るまでの話が、コンパクトにまとまっている。



『ヨーロッパとイスラーム―共生は可能か』
内藤正典(著)岩波新書

実は今回、一番面白かった一冊。
移民問題といいながら、イスラームとヨーロッパの現代的なかかわりが浮き彫
りになる。
うぬうぬ、ふむふむ、と、共感とともに読んだ。
お勧めの一冊です。

  
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2006年02月25日

『イスタンブル物語』 森川久美

絶版になった漫画で、全6巻。
これが実に面白い。ケマル・アタチュルクがトルコ共和国を成立させんと、
ボスフォラス海峡をはさんで大英帝国と睨み合っていた時代のトルコが舞台。

基本は恋あり冒険ありの少女漫画なので、少女漫画に抵抗のない方に
オススメなのだけれど、いかんせん絶版。
復刊ドットコムで探してみたら現在投票中でした。
ということで、読者の皆様にご協力をお願いする次第。

イスタンブル物語
著者:森川久美


復刊に関しては、ブノアメシャンの著作についても以前お願いしたけれど、
こちらも引き続き、ご支援のほどを!

http://arima.livedoor.biz/archives/50108406.html  
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2006年01月22日

『新トルコで私も考えた』

なんと、新連載が始まった。
それも、私が毎号発売日ごとに走って買いに行く『YOU』という漫画誌。
『ごくせん』愛読者の私。これで一粒で二度おいしくなった。
ふっふふふ。

既に4巻出ていて、すでに依然ご紹介済みだが、改めて・・・。

トルコで私も考えた (1)〜(4) ヤングユーコミックスワイド版
高橋 由佳利 (著)







トルコで私も考えた (1)




トルコで私も考えた (2)




トルコで私も考えた (3)





トルコで私も考えた (4)


トルコで私も考えた [少年向け:コミックセット]

  
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2006年01月04日

中東キリスト教の歴史

『中東キリスト教の歴史』日本基督教団出版局

とりあえず基礎知識として、細かく全貌がみえる。

  
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砂漠の修道院

『砂漠の修道院』平凡社ライブラリー 山形 孝夫 (著)

コプト教関連で、この一書を超えるものはないと思う。
内省的な美文も素敵だ。  
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2005年12月26日

クリスマスのおすすめ本

中東でも何でもなく、ただなんとなくお気に入りの絵本を三冊。

『絵で見るナイル川ものがたり―時をこえて世界最長の川をくだる』
アン ミラード (著), 松沢 あさか (翻訳)

絵本ですが、書き込みが細かく、子供と一緒に大人も楽しめます。
エジプト史に関心のある方は必ず楽しめます。



『聖なる夜に―A SMALL MIRACLE』
ピーター コリントン (著)

ちょっとお疲れの方に。文字のない、絵だけの聖夜の物語。


『猫の本―藤田嗣治画文集』

ちょっと好きだなあと思っているような人に、こんな本をもらえたら素敵だな、と思います。
私は自分で買いましたが(フン)。

  
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岩波 キリスト教辞典

『岩波 キリスト教辞典』

私の虎の巻その三、である。
安価に入手できる同様の本がなかなかないので、御役立ちの一冊ではあるが、
同シリーズの『イスラーム辞典』に比べると若干内容は軽量か。
まあ、あの本が出来すぎているのだ、と思うべきなのだろう。




  
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