ずいぶん前に、この本の紹介をした。
忘れた今頃に『復刊ドットコム』から「50票入りました」という連絡が来た。
正確には「到達しました」とあった。
まさに「到達」という言葉が似合う。
紹介記事からニ年三ヶ月たっている。
ケマル・アタチュルクのトルコ建国話は、色々ありそうなものだが案外出ていない。
実に二枚目だったし、女性関係も華やかな武人であって、いくらでも小説や映画のネタになりそうな人物なのだが、悲しいかなトルコの法律で「アタチュルク侮辱禁止法」なるものがあるために、研究者であろうと誰であろうと、この建国の偉人のディテールに迫りにくいからだ、という話を聞いたことがある。
2代目大統領イノニュによって規定されたものだ。
それを考えると、当時の日本の少女漫画とはなんと幅広かったことよ、と思う。
むしろ漫画だからこそできたことなのかもしれない。
メインになるのは、架空の美男美女の惚れたハレタの話だ。
なんだ・・・と思われるだろうが、この作品に描きこまれたディテールはなかなかのもので、少女漫画に関心がなくてもトルコの歴史に関心があれば、十分に読みきれるものだと思う。
この少し前にトルコ近代史の本が、これは無事に復刊されたという通知もきていた。
私は未読だが、以下の本である。
■『トルコ近現代史 イスラム国家から国民国家へ』
【著者】新井政美
【発行】みすず書房
【定価】4,410円(税込み)
【発送時期】6月上旬
面白そうな本なのだが、ちょっと値段が張るので検討中。
しかしこの類の本は初版が出たらそれっきりなので、欲しいと思うならば買っておくのが正解ではある。
正解と経済力が常に均衡しない浮世の矛盾よ。
嗚呼。
最近の我が家は猫に焼き鳥を買う資金が、知的正当性を凌駕しているのである。
夫婦そろって進んでやっていること故に、誰に不満を言うものでもないのだが、嗚呼。
そして、もっと前から復刊運動中のブノアメシャンの中東三部作も、改めて見たらまだまだ遠い道のりらしい。
この三部作など、これだけトルコはじめ中東各域に日本人観光客が跋扈する今、ハンディーな文庫になったらきっと売れるだろうに・・・と思うのだがなあ。
そういえば時は五月末。
イスタンブルが最も美しく楽しい時期だ。
空港から仕事のオファーのあったホテルまでの途中で、タクシーの窓越しにマルマラ海に降り注ぐ美しい初夏の陽射しをぼんやりと眺めていたものだった。
あの時は色々と大変なことが続いていて、正直なところ「日本に戻ってやり直し」という選択肢もあったのだったが、あの海のきらめきにやられて到着前にイスタンブル移住を決めてしまったのだった。
27歳で独身だった。
あの年代で、独身最後の一年余りとなった時期をイスタンブルで過ごせた。
これは今でも、僥倖のように素晴らしいことだったと思っている。
そういえば、現在顎の腫瘍で闘病中のヒメちゃんも、この翌年にイスタンブルで生まれたのだった。
手元で生まれた手のひらにおさまるような仔猫が、15年後の今すっかり偉くなって私にアレコレと指図をしている。
最近どうもこういう感慨が多いような気はするが、そりゃあ私が中年になるわけだなあ、としみじみ思う。