一流ナイトクラブでのベリーダンス鑑賞が、男性といえども「難」で、実は「けっこう現実的で辛い理由がある」などと、やけにもったいぶったことを前回書いてしまった。
いや、何も複雑なことはない。
持って回っていうほどのこともない。
例え一流といえども、カイロのこうしたナイトクラブは「強烈な夜更かし型」だ、と、
本当にそれだけのことなのだ。
エジプトに限らず、中東やら地中海地域やらで生活すると痛感するのだが、
日本人というのは実に健康的で早寝早起きな国民だと思う。
なにしろ夕食が6時だ。
レストランのディナーが8時終了だったりする。
ディナーの時間というのは、各国各地で色々なのではあるが、夕食が6時か、遅くても
7時ごろが常識である国、というのは珍しいのではないかという気がする。
その他アジア諸国の状況をよく知らないのでなんともいえないが、少なくともヨーロッパや
中東の感覚でいくと、これは極端に早い。
まあ、日本の場合は夕食がメインの食事だから、早く食べないと消化に悪い、などという
事情もあるのだろうか。
エジプト人など、5時半頃にランチ、などという話もよくあるくらいだ。
ディナーのピークは10時ごろとなる。
飲み屋じゃなくて、ごく普通のレストランが、である。
だからなにがどうなっているんだよ、という声がそろそろ飛びそうだ。
わかりやすいように、とりあえず一流ナイトクラブのスケジュール例をあげてみよう。
22時 開店。ただし、客はいない。たまに間違って入ってきた外国人が、
所在なげに人気のない店で極限まで遅くしたディナーを突いていたりする。
23時半 前座のバンドが、チューニングなどしている。
パラリンポロリンとBGMめかしき演奏が、なんとなく始まる。
深夜0時 やっと客が入り始める。二つ目のバンドがゆるゆると、今度はもう少し
ライブ感のある演奏をやる。ディナーも終わって、夜はこれから、だ。
そんなこんな感じで、ようやく座が盛り上がり始める。
前座やバンドの数は、クラブによる。
深夜2時 べリーダンサー登場!ダンサーの格によって、前座の若いダンサーが出る こともある。この辺が本番。
深夜4時 〆に歌謡ショー。有名歌手が出て、大いに座を盛り上げる。
まあ、氷川きよしや北島三郎とまでは行かないが、
山本譲二クラスの歌手だろうか。
こんな調子で、夜も明け染める頃に営業が終わるのだ。
これは「一流クラブ」の話であって、朝5時ごろから盛り上がる2次会用クラブも、
ヘタすると朝7時ごろからまだまだ頑張るクラブもあるらしい。
老若男女、果ては子供まで、本来夜更かし体質が強いエジプト人。
本気で夜遊びを始めたら、日本人など到底付いていけるはずがないのである。
まあこういう盛り上がりはディスコなどの類も同じで、昔早朝5時ごろに仕事でホテルへお客の出迎えなどに出かけると、眠くてボーッとしているこちらを尻目に、
テンションをあげまくった夜遊び族とすれ違ったものだ。
早朝から疲労感を増す光景ではあった。
一度夫同伴で出た「ナイトクラブ現場研修」では、ひたすら欠伸を噛み殺しながら、
モウカエリタイヨウという態度もあらわな彼を、ナンノカンノと必死でなだめて過ごした。
当然、木曜の夜(エジプトは金曜が休み)に出かけたにせよ、じっと座って飲み食いしながら
明け方まで過ごすというのは、強力なモーティベーションを要することだ。
なんだかよくわからんままに、妻の業務研修に徹夜で付き合う夫の姿、というのも
実に不思議だが健気ではある。
多少ブツクサ言ったからとて、誰が責められよう。
ついでに本当のことをそっと告白すると、私は女性なのでもあるし、ナイトクラブの
実態を知らなかったとしても、直接の業務に支障はないので、断ろうと思えば断れた
研修だったのでもある。
でも、結局その晩そこに夫まで引きずり出して座っていたのは、純粋に好奇心ゆえだ。
スマヌ、夫よ。
もう時効だと思うから、なんとなく謝っておく。
当時はフィフィ・アブドゥという大御所ダンサーが現役で、別のクラブに週何度か出ていた。
夫もこちらは仕事の接待で行ったことがあるのだが、この日のショーとはまるで格違い
だったそうだ。
私自身もその昔にDinaのショーを見ていたので、その日のショーはなんとも中途半端
に思えた。
一流ホテルのナイトクラブだから、絶対に期待感に沿ったものになるとは限らないのだ。
だから、なにが難かと言えば「朝まで付き合う根性がいる」と、そこに尽きる。
エジプト人始め中東の人たちというのは、夜エンドレスで遊ぶことにかけては、
日本人など想像もつかぬほどパワフルなので、いきなり何も知らないで「ナイトクラブで
ベリーダンスのショーを・・・」などと出かけても、たぶん面食らうだけだと思う。
ちなみに、友人のRさんがみたDinaというトップダンサーのショーは、実に素晴らしい
ものだったそうだ。
お値段は一人US$150と、これもまた素晴らしいのだが「その価値は十分にありました」
との由。
これはフルコースのディナーもつくので、日本でクリスマスのディナーショーなんぞを
観に行くことを考えれば、まあリーズナブルな値段といえるかもしれない。
だから、どうしても一流ダンサーの芸に触れたければ、朝まで盛り上がる気合を持って、
根性を入れて、翌日も半日潰れることを覚悟の上で臨むべし、ということになる。
そして、大切なのは、そこまでやる価値のあるダンサーが出てくるかどうか、しっかり
事前に確認することだろう。
そんなわけで観光客相手とは言っても、所謂「ナイル川ディナークルーズ」はコンパクトに
うまくまとまったショーを、まともな時間に楽しめるので、ベリーダンスを雰囲気だけでも感じたい向きにはオススメできる。
しかも、これならば実に健全なので、女性だけで出かけても、まったく不自然ではない。
きれいな夜景を堪能して、翌朝からの仕事なり観光なりに向けて鋭気を養えるので
「観光客向け」と馬鹿にしたものでもない、と私は思う。
まあ、あの「夜のパワー」を実体験することで、なにか一つエジプトを知ることには
なるだろうから、決して無駄だとまでは言わないけれども・・・。