2006年10月06日

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再び、ラマダーンの風景 〜 彼らの信仰、私のお仕事 其の二 〜 【第64話】前編

●続「お祈り」と「お仕事」、そして「宗教」

「エジプトでのラマダーンは正直に告白すると、案外人間関係的にしんどかった」
と、前回ぼやいた。

単なるボヤキである。
個人的な愚痴だ。

でも敢えて言ってしまうと、ラマダーン中のエジプトのイスラム教徒というのは
往々にして非常に押し付けがましくなる。
時には高圧的ですらある。

イスラームに限らず、信心深い人と対するときに、その宗教の詳細やその是非に
ついて議論するのは、どこの世界でもタブーだろう。
もしやると、たいていは感情的になって相手がヒステリックになるか、逆に
非常に沈鬱な顔つきで立ち去られた挙句に、二度と口を聞いてもらえなくなるか、
そのどちらかだと思ってよい。

いや、エジプトなどでイスラム教徒を相手にそういう議論をしたわけではない。
たまたま私は古いプロテスタントのクリスチャンの家で生まれ育ったので、
中学生くらいのころに教会で、そういう類の議論をぶつけたことがあったのだ。

たかが子供のいうことに、大人がむきになって
「あなたのいうことは間違っています! 何故なら間違っているからですっ!!」
という様な反応をするのにウンザリした挙句、教会に行くのをやめてしまった
ことがある。

いま私が大人としてその場にいたら、そんなコナマイキなガキは一瞬でひねって
やれると思う。
自分の宗教に対するスタンスを、常に取りかねている不信心ものの私だから
言えることもあろう(勿論、これは威張れたことではない)。

一方で、敬虔で信心深い人というのは、往々にして視野が狭く頑ななところがある。

そんな経験が頭の隅に残っていて、現地で宗教の話は極力避けていた。
虎の尻尾で遊ぶには、本人あまりに余裕がなかったのである。

でも、腹の立つことの一つや二つ、三つ四つ五つ、こうした異種の信仰を掲げて
対してくる同僚になかろうはずはない。

例えば
「断食をしないのか? 何故だ?? 良いことではないか・・・。
少なくとも我々と、気持ちを分けあえるのに、何故オマエは断食をしないのだ」
などという問いかけは、聞き飽きるほど聞いた。

「私はクリスチャンだから」と、我が母や親族がどう考えても「是」としなかろう
一言で、全ての議論を逃れていたものだった。

そもそも、自分たちの大事な宗教行事に、そう簡単に異教徒を誘うことは、
神(アッラー)に対する不敬ではないのか??、とよく不思議に感じたものだ。
何の神であれ。

(*注:アッラーというとイスラームだけのように思われがちだが、英語で"God"が
「神」を一般に示すのと同様、アラビア語のアッラーも普遍的に「神」を意味する)

こういった宗教儀式である断食に「体験参加」するほうが、よほど不敬に思えるが、
そういう考え方は偏狭なのだろうか?

まあ、したい人はすればよいと思うが、私は頑としてしなかった。
あくまで、私個人の気持ちの問題である。
日本で寺社仏閣にいっても、見学のみで参拝は避けた私が、エジプトだからといって
「断食」という真に宗教的な「行」に参加するのは、間違ったことに思えたのだ。

挙句に「XX社の日本人スタッフは、断食をしているそうだ」などと言われる。

あ、そう・・・そのヒト、何日か前に我が家で飲んだくれて帰ったがな・・・などは
言わぬが花だ。
イスラム教徒ですら、本音と建前の使い分けが必要なのだ。
その彼を責める理由は、全くない。

それにしても、黙ってこっそり昼食を済ませてオフィスに戻れば
「あ、ナニカ食べたな・・・?」と、鼻をヒクヒクさせられるのには参った。
そういう煩悩に耐えるのが「行」なのではないのかねえ。

いまはやめたが、当時はヘビースモーカーだったので、煙草を吸う場所も考える。
普段は「女子喫煙所」状態の場所で、煙草なんぞ吸おうものならば睨まれるのだ。

だから、わざわざゲスト用のトイレで、人気の少ないところを選んで「個室」に
閉じこもってコソコソ吸っていたものだ。
不良に憧れる中学生じゃあるまいし・・・と、たいそう情けなかったのを今でも
覚えている。

しかし有り難いことに、この期間はイスラム教徒が「イフタル(断食明けの食事)」
を自宅でとれるよう慮って、退社時間が一時間ほど繰り上がる。
だから、全員全速駈足で退社したあと、人気のない静かなオフィスで仕事をするのは
なんだか楽しかった。
解放感があるということは、それなりに一日中、結構ストレスがたまっていたという
ことでもあるわけだが。

私一人だけ残った事務所で、ゆっくりと煙草を吸う。
他には、隣のオフィスにイギリス人の上司が居残っているだけだ。

はあ、やれやれ・・・と思っていたら、一人仕事で居残りになっていた下っ端の若造
が、
「オマエ、ラマダーン中なのに、どういう神経してるんだ!」と言ってきた時は
さすがにカチンときた。

「就業時間は過ぎてる。ココは私のオフィスだ。しかもオマエの場所は外の廊下だ!」

なんという、大人気ないことを言って、オフィスのドアを閉めたりしていた・・・
あ〜あ。

(後編に続く)



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この記事へのコメント
イスラム教徒でない人に断食を共にするように求めるのは、アリーマさんのおっしゃる通り、本当に宗教心を持ってこの修行に臨んでいる信者に対して失礼だと思いますけどね。
そう言う人たちこそきっと、「周りがやってるから自分も」程度の信心なのでしょうね。
断食を始めて分かったのですが、断食中に周りで飲食している人を見ても私自身は別に何ともないですよ。「いいなぁ、私も食べたいなぁ」とは思わないものです。強制されているわけでなく、自分の意志でやってますので、本来周りは関係ないと思いませんか?
あっでも、すごく矛盾してますが、アリーマさんの美味しそうなレポートを読んでいると、食べたいなぁ&飲みたいなぁって思いますよ。う〜ん、罪なお人・・・。
Posted by mona at 2006年10月06日 19:45
monaさん

やはりきちんと断食していらっしゃるのですね。

>強制されているわけでなく、自分の意志でやってますので

そうですよね。イスタンブルにいたときは、やる人はやる人で、やはり「自分のため」でした。
だから、異教徒を安易に誘うのは、私も間違っていると思うのですが(コプト教徒に同じことを言えまいよ、と思いますし)、イスラームであることがある種の正義であるエジプトのような国だと、往々にしてこういう発言が出ます。私は根がヘソ曲がりなせいもあって、この類の押し付けがましさには腹立ちを感じてしまいます。

ところで「美味しそうなレポート」って「ほにゃらら」のほうですね・・・スミマセン・・・秋でひたすら食欲高まる今日この頃で・・・。
でも、エジプトも断食明けは毎日ご馳走でしょう?
それはそれで羨ましい気も・・・ははは。
Posted by アリーマ at 2006年10月06日 22:42

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