2006年02月24日

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中東治安事情 其の二 〜『治安』と『危険』の感覚 (2)〜 【第45話】

●再び、治安について

前回、預言者ムハンマド風刺画問題を突然取り上げて、こっちの話題は
一ヶ月以上前に「つづく」としてそのまんまになっていた。

風刺画問題とヨーロッパの移民状況を、北欧を中心に考える・・・というテーマ
も、やっぱり「つづく」なのだが、何冊か本を手に入れて、情報は読者の方や
知人友人家族など、いろいろ話を聞いているところ。
だから、先にきた「つづく」を続けることにした次第。

前回は、湾岸戦争当時に私が肌で感じた状況のことなど書いてみた。
要するに、非常時といっても、案外現地が静かな場合もある、ということだ。

ただし、こればかりは行ってみなければわからない。
あと、行った挙句に半泣き顔でビビりまくるくらいなら、やめとくのがよろしい。
周りの人が迷惑ですからね。

もうひとつ、外務省が明確に「行ってはいけない」という地域には、特殊な職務
や義務を負った例外的な人々以外は「行かない」のが常識だと思う。
冒険心、怖いもの見たさから人道的理由まで、理由はいろいろだろうが、
行った本人の身に何かあったとき、振り回される人間はいるし、外務省が
乗り出す事態になればそこにかかる費用は我々国民の「血税」から出て行く。

エジプトでも、アビドスのオシリス神殿や、デンデラのハトホル神殿が、
かなり長いこと「行ってはいけない地域」に指定されていた。
アビドスの神殿などは、数あるエジプトの神殿群の中でも個人的に一番好きな
神殿で、非常にスピリチュアルな清浄さを感じるものだ。

神殿内部の壁画
神殿内部の壁画
レリーフの色彩が美しい。


歴代のファラオの名を記した『王名表』
歴代のファラオの名を記した『王名表』
ハトシェプスト、ツタンカーメンといった、いわくつきの王名は抜けている。



(いすれも写真は「Osiris Express」より)

ただ、割合と近くにあるアッシュートという町では、キリスト教徒が多く住む
こともあって、イスラーム原理主義の過激派が一時期かなり暴れていたのである。
観光客がそのとばっちりを受けるといけない、ということで、
外務省が「行ってはいけません」としていたわけだ。

しかし、ダメといわれると行きたくなるものなのか、なんとなく行ってきて、
ついでに得意げに「行ってきちゃった」と手記まで出す者がいて、内心憤然と
なったことがある。

行ってアンタが事故やらで死ぬのは勝手だが、そのとばっちりはコチトラ観光業
関係者にくるんだっ!

いや、実に身勝手な「経済的理由」なのだが、観光関係者一同の血の滲むような
努力で、ようやく日本人の観光が戻ってきつつあったころだ。
それが、すべて水の泡になりかねないのである。

ついでに大変心の狭いところを告白すれば、私だってもう一度行きたいのを
必死で我慢しているんだぁ! というのもある。

まあ、後者の理由はどうでもいいとして、要するに、
いわゆる危険地にひとたび入れば、あなたの命はあなただけのものでなくなる、
と、ここのところを一度、声を大にして言いたかったわけだ。

「オメエのお遊びに使う、国費はネェ!」だ。
(知っている人は『次長課長』の「タンメン」でやってください・・・)

なお、念のため、アビドスもデンデラも現在は
「行っても良いが、きちんと警察の先導と護衛をつけて行動すること」
となっている。
また、この護衛のコンボイは、さすが観光大国エジプト(?)、有料である。
具体的にいくらか聞いたことはないのだが(知ってる方、教えてください)
相当な額が「上納」されるらしい。


●「日常の治安」と「非日常の治安」

以上は、政情的な不安からくる「治安」である。
自爆テロ、爆弾テロなど、テロリズムがらみの事件や事故に巻き込まれる
可能性は、残念ながらゼロにはならない。

ただし、これは何の気休めにもならなかろうが、ゼロじゃないのは世界中同じ
なんである。

これはまた思い出話だけれど、カイロのホテルの営業で日本出張するたびに
「エジプトって危険なイメージでねぇ・・・」
と、毎度渋い顔をされていたものだったが、サリン事件の直後だけは
「日本でも起きるときは起きるではないですか」
と反論できた。

こういう、いってみれば非日常的な事件は、イスラーム原理主義がらみの
テロであれ、そうでないものであれ、世界中どこにいったってある。

まあ、昨今のベイルートなどでは日常的に上空で「ドカン」と爆弾みたいな
音がするんだそうだ。

「あれ、なに?」と驚いて聞いたらば、
「ああ、イスラエルの戦闘機だねえ。音速を超えるときあんな音になるのよ。
困るんだよねえ。威嚇のために飛んでくだけなんだけど、うるさいし
うっとおしいなあ」

と、こともなげに現地の人は答えたとやら。
さすがレバノンまでくると「日常と非日常の境」もかなり違うようだ。
でも、実害がない限りは日常の風景となる。
蛇足だが。


●日常の治安、そして住み心地について

さて、そんな状態だから、中東って怖いところだと思われがちである。
女性が一人で住むなど、とてつもなく勇気ある行動のように
驚かれることが多い。

しかし、こういう「非日常的治安」と「日常的治安」は、別物なのである。
私が一人で住んだのは、ミュンヘンとイスタンブルとカイロの三都市だ。
個人的に感じた治安は、

1.カイロ、2.イスタンブル、3.ミュンヘン

というところ。
もちろん「住んでいて安全な順番」である。
とくに「日本女性の一人暮らし」という観点から見ている。

2と3はほぼ同率としてもいいかもしれない。
日本は3位ミュンヘンと同じくらいか。

どの都市にしてみても、基本的な注意を怠らず、物騒なところに出入りしない、
夜道の一人歩きは避ける、戸締りはしっかりと、人ごみなどで携行品には常に
注意を払う、知らない人に声をかけられたら無視して相手にしない・・・と、
普通に日本で生活しているスタンダードを守れば、そんなに怖い思いを
することはない。

ただし、イスタンブルなどトルコの都市部では、観光客目当ての犯罪はかなり
悪質なものがあるので、この辺はミュンヘンや東京より悪いかもしれない。
それでもミュンヘンを下に置いたのは、観光客に限らず、外国人を狙い撃ちに
した暴力事件や嫌がらせが往々にして発生するからだ。

あくまで私が個人的に見たり効いたり感じたりしたことなので、
異論はあるかもしれないし、当時は東西ドイツ再統合の前後で、東ドイツを
はじめとして、東欧から一斉にさまざまな人間が流れ込んで、特に南部国境に
近いミュンヘンは相当混沌としていた感があるから、
今は変わっているかもしれない。


●ミュンヘンでの『わが闘争』

でもとにかく、当時のミュンヘンの場合、スーパーマーケットやら商店やらで
始終釣り銭はごまかされるし、昼間っから怪しげな薬でどこかにイッちゃった
ような、目の焦点の合わない若いのが地下鉄や鉄道駅の地下構内の片隅で
たむろってるし・・・と、トルコやエジプトではない嫌な雰囲気があった。

釣り銭ごまかしなどは、エジプトやトルコでも無くはないけれど、
あからさまに東洋人を狙い撃ちにする、いかにも性の悪そうなレジ打ちの
オバハンなんというのはいない。
日本人はアグレッシブに抗議しないのを見越しての行動だから、悪質だ。

当時の私の場合、どんな時でも絶対にあきらめなかった。
とりあえず「お釣りが少ない」と申し述べ、むやみに早口で攻撃的な返事が
帰ってくると、こっちも大声で

「いくら出して、レシートはいくらで、お釣りはいくらのはずなのに、
あんたはこれしか返してないんだよ! いくらいくら、返せ!!」

と、怒鳴り返す(ついでに、周囲で待ってる人たちにもアピールする)。

尚、この「怒鳴る」という行為が有効なのは、ドイツあたりであって、
エジプトやトルコではよほどでない限り、事態を混乱させるだけだ。
念のため。

ドイツでは、商店の閉店時間が見事なほどタイトに定まっていて、
しかも土曜は昼まで、日曜祝日は休み、というのが徹底している
(だから労働者には優しい国ではある)。
夕刻閉店ぎりぎりともなれば、長蛇の列がイライラしながら順番待ちを
しているのが常だ。

それを見ながら粘るのは、結構疲れることなのだが、
ここで私が泣き寝入りなどしたら、このオババはまた別の東洋人相手に
同じことをやるであろう。
若かったので「我が同胞のためにも、私は戦ってやる!」とか、思ってたのだ。
しかも、当時薄給極貧生活だった私には、500円程度だって重要な生活費。
下手すると一日分の食費に相当する(とほほ)。
若かったから、根性決めて怒鳴りまくる体力もあった。

たいていそうすると、向こうが根負けするか、周囲が「いいかげんにせよ」
とオババを諌めてくれる。
憮然と釣り銭を受け取りながら、やれやれ、と溜息。
下手をすると、ボーっとお釣りを多く渡してしまうカイロの店員が、
ひどく恋しかったものだ。

そういうわけで、ドイツなんて一見スマートで文化性に満ち溢れて見える国が
案外住みにいこともある。

カイロなど、確かにそれなりに町のルールがあって、慣れないと戸惑うけれど、
外国人には親切だし、日本の女性には特に親切だし(時に過剰なほど・・・)、
日常生活については気楽な国だ。

だから、私が犯罪の被害にあったことが全然ない、というわけでもない。
この話は、また改めて・・・。

(つづく→そのうちにまた、インシャアッラー)


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この記事へのコメント
>このオババはまた別の東洋人相手に
同じことをやるであろう。

で、ごまかしたカネは自分の懐へ入れるわけですか?

そんなのと比べて「日本は3位ミュンヘンと同じくらいか。」ということはないでしょう?w

Posted by 通りすがり at 2006年02月25日 17:46
まあ、日本の日常レベルで生活安心度が低下しているのは事実ですよね。

2〜30年程前までは、都市部でカギをかけずに家を留守にしてもほとんど問題なかったし、女性が夜に一人歩きしても、襲われたりひったくりにあったりということはまず考えられませんでしたからね。

全体の雰囲気が安全だったんですよ。
いまじゃそんなこと考えられないでしょ?

アリーマさんがおっしゃる「ミュンヘン並」というのは、今の日本を考えると妥当なところでしょうね。ニューヨークやロンドンよりはまだ安全なんでしょう。

Posted by TED at 2006年02月25日 20:40
通りすがり様

まあ、とりあえず「例の一つ」ということで、治安全般という意味から言ったら日本はミュンヘンくらいかな、という意味です・・・言葉が足らずに失礼しました。

日本人が日本人で日本で生活してるとわからんでしょうが、タクシーの外人ぼったくりとかはすごいですよ〜。まあ、それはどこでも同じですけれどね。

Posted by アリーマ at 2006年02月25日 20:43
いや別に非難している訳ではありませんので、誤解の無きよう。

>で、ごまかしたカネは自分の懐へ入れるわけですか?
↑これを聞きたかったのです。
「長蛇の列」というくだりから、個人商店ではなくスーパーマーケットの話だと受け取りましたが、だとすると、店ぐるみなのか、レジのババァの個人的犯罪なのか?ということです。

日本のタクシーぼったくりは私自身経験してますが、さすがに釣り銭をごまかすスーパーが日本にあるとは思えなかったので…
それとも、東京には、外人相手に釣り銭をごまかすような日本人として情けなくなる店が既にあるのでしょうか?

アメリカでは、中国人やインド人の個人商店は必ず釣り銭をわざと間違える。
ただし、間違いを指摘すると、中国人はしぶしぶ正しい額の釣り銭を出すのに対して、インド人は丁寧に謝りながら再度わざと間違った釣り銭を出す。
という話をアメリカ在住の日本人に聞いたことがありますw
Posted by 通りすがり at 2006年02月25日 21:18
通りすがり様
>で、ごまかしたカネは自分の懐へ入れるわけですか?
↑これを聞きたかったのです。

明らかにオババの懐行きです。確認したわけではないけど、まさか店ぐるみということはないでしょう。ただ、ミュンヘンの場合、ホテルのようなきちんとしたところでなくて、スーパー程度だと責任者を呼んでも余計気分が悪くなる対応をされるだけなのは事実です。

>中国人やインド人の個人商店は必ず釣り銭をわざと間違える。ただし、間違いを指摘すると、中国人はしぶしぶ正しい額の釣り銭を出すのに対して、インド人は丁寧に謝りながら再度わざと間違った釣り銭を出す。

結構笑える話ですね、なんて言ったらいけないのかなあ。
Posted by アリーマ at 2006年02月25日 21:54
TEDさま

そうですよね。日本はいまや、田舎でもおちおち夜道を歩けません。
悲しいです、最近の日本の現状。
「カイロが危険度1なら、パリやロンドンは危険度2、ニューヨークは3だよねぇ」と、よくみんなで言っていたものです。
まだ日本は「ミュンヘン並」ということで、ましなほうですが、カイロやイスタンブルのほうが生活上の治安は上です。
また「子供は宝」なので、最近続発しているような子供の拉致殺人なんてほとんど考えられないし、これは『トルコで私も考えた』に出てましたが、自分のうちの子供がいじめにあったら、親族の男たちが相手の家に殴りこみ・・・なんて、本当にあるらしいし。
湾岸あたりなど、もっと安全と聞いています。これは国が犯罪を徹底して強圧的に取り締まってるかららしいですが。
Posted by アリーマ at 2006年02月25日 22:05
>スーパー程度だと責任者を呼んでも余計気分が悪くなる

そうですか。
ドイツ人に対する日本人のイメージとはずいぶん違いますね〜

>また「子供は宝」

それは日本でもかっては常識でしたが、かっての美風を取り戻したいものです。

http://www5.ocn.ne.jp/~sechiko/column/column1.html
Posted by 通りすがり at 2006年02月25日 23:34
通りすがり様

そうですね、ドイツに対するイメージって、勤勉でまじめで、というのがありますが、実情は私が知る限り・・・です。「完璧にwell-organizedなのは、ミスったときの言い訳だけ」といったらあまりに口が悪いのでしょうが。

まあ、これはあくまでも私の感覚で、実際ドイツにいたときに諸般の事情であんまりいい思い出がないこともあるのですが。

実際、レストランで珍しく感じのいいサービスのいいウェイターだなあ、と思ってそう言ったら「俺はギリシャ人だ」なんていうことはよくありました。

ドイツはうちの親族もいろいろ縁のあるところなので、また取り上げたいと思います。
Posted by アリーマ at 2006年02月25日 23:51

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