2005年12月12日

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中東犬猫話 其の二 〜聖なる猫、賎なる犬〜 【第39話】 Vol.2

●古代エジプトの猫の神

そんな現実的な理由もあって猫と人が暮らし始めた古代エジプトは、八百万
(やおよろず)の神を祀る国でもあった。
こうした宗教の場合、怖れ敬われる対象は高位の神となり、単純な愛情や喜び
の対象は卑近な神となる。
猫はバステトという女神として畏怖よりは愛情を受けた。
こういう至高というよりは卑近な神様の常で、この女神の具体的な神性は今ひ
とつあいまいだ。
太陽神の使者にして守り神、愛の女神、多産の象徴などなど、漠然とした定義
が山ほどあって、読む本ごとにいろいろなのである。
ようするに「猫の神」ということなんだろう。

なおこの時代にも「猫虐待禁止令」が徹底し、虐待するなどもってのほかだっ
たという。

(バステトの像 ルーブル博物館所蔵)
http://de.wikipedia.org/wiki/Bild:Egypte_louvre_058.jpg

太陽神ラーを最高神とする古代エジプトでは、猫の姿も神聖なものと見えたよ
うだ。
「あの目」である。
太陽とともに月も神聖なものであった国で、陽光の強弱で瞳の大きさを変える
姿は神秘的だったに違いない。

彼の国では、大事な動物、聖なる動物をミイラにして祀る習慣もあって、猫の
ミイラも大量に出土している。
ベニ・ハッサンという遺跡では、なんと30万体の猫のミイラが出土したとい
うから、愛され方は尋常でない。

尚、カイロ考古学博物館には、こういった動物のミイラを集めた一室があって、
猫はもちろん猿、鰐、馬など、さまざまな動物のミイラが展示されている。
関心のある方は、どうぞお立ち寄りあれ。

この時代の猫にまつわる話は山ほどあって、ヘロドトスは「エジプト人は家が
火事になると人より先に猫を救い出した」と記しているし、敵国との戦いでは
猫の群れを最初に置かれたせいで攻撃ができずに惨敗したり・・・と、結構極
端な愛情が注がれていたのが良くわかる。
何しろ当時の聖職者など、日がな一日じっと動かず眠っていられる姿を「内省
的」と崇めたそうだ。
ものは言いようである。

当時(といっても2000年近く期間はあるが)猫は海外「連れ出し」御禁制でも
あった。
それでもこっそりと連れ出したのはフェニキアの商人だと言われており、ヨー
ロッパに家猫が伝わった次第。連れ出しの理由はどうも「船のねずみ番」だっ
たらしい。

また、女王クレオパトラで有名なプトレマイオス朝の時代、当時のタイである
シャムの国にエジプトの猫が献上されて、シャム猫の起源になったそうである。


●聖書と猫

ところで、ついでにユダヤ教、キリスト教に目を向けると、こちらは徹底して
「アンチ猫」である。
猫が魔性というイメージもキリスト教がもとだし、聖書など猫のネの字も出て
こない。

ユダヤ教の場合は、古代エジプトの圧政下で差別され、苦難の日々を過ごした
恨みの裏返しで、猫を嫌うようになったともいう。
御存知のごとく、映画『十戒』でも有名なモーセの物語で、ユダヤの民の逃避
行を追ったのはラムシス二世の息子、メレンプタハの一隊である。

キリスト教の場合は、やはりヨーロッパ土俗の信仰で猫が女神として崇められ
ていた、その裏返しという側面があるらしい。
そもそもカソリック教会が攻撃的なほど権勢を延ばしていたころ、教皇の誰か
が大の猫嫌いだったんじゃないの・・・というのは、私の単なる想像だけれど。

ともあれ、イスラーム圏の猫たちは、犬と違ってのんきに生きている。
たまにグインと伸びをしていると「アル・ハムドリッラー」などという声が、
どこからともなく聞こえる気がするカイロの街角である。



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この記事へのコメント
アレクサンダー大王があっと言う間にエジプトを征服できたのは、エジプト人が立てこもる城壁内に投石機を使って石でなく猫をバンバン打ち込んだからだとかいう話がありますね〜
エジプト人は「神聖な猫が虐待されるのを見るくらいなら降伏した方がマシ」と思ったというのですが…
Posted by pb at 2005年12月19日 18:25
pbさま

ペルシャは隊列の前に猫を並べて「猫の盾」にしたとか。

まあ、アレクサンダーが来るころのエジプトはほぼ崩壊状態ですから、そこまでしなくても勝てたような気はしますが。
また、エジプト人は古来農耕民族で気質が穏やかなので、ひょっとしたらそんな理由で投降するかもしれないなぁ、と想像したりします。
Posted by アリーマ at 2005年12月19日 22:02

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