2005年11月11日

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恋愛と結婚 御当地事情 其の一 【第35話】

●大和撫子は世界の憧れ?

日本の女性が中東各地を旅行すると、たいてい誰でも一度や二度は、
現地の男性にアプローチされる。
頻度に個人差はあるだろうけれど、結構「容姿年齢問わず」だ。

昔から、控えめで男性を立てて行動する日本女性のイメージは「世界の憧れ」
だった。
中東に限らず、欧米でも憧れる男性がいまだに多いらしい。
正確に言うと「こういう女性に憧れを持つタイプ」が欧米に結構いる、
ということだ。
一方で「ひたすら男の後ろばかりついてくるオンナのどこが面白いんだ?」
という人たちもいる。
どっちも誤解だか幻想だかよくわからんイメージに偏ってはいるけど
日本の女性がヨーロッパや中東あたりにいると、何かと目立つのは事実である。

欧米に関しては、憧れ派に同情したくなるような現実は結構見た。
何しろ女性が強いのである。
で、男性のほうも向こうを張れるだけ強ければいいのだし、普通はお互いに
切磋琢磨状態でバランスをとっていくようだけれど、案外ついていけない
男性はいて、日本女性の立居振舞に安らぎを覚えるわけだ。


「いや、最近は日本の女性も変わったのだ!」という声があがりそうだし、
事実変わってもいるのだけれど、まだまだ優しいほうではないかと思う。

多くの日本女性というのは、良かれ悪しかれ社会的に
「おっとりかわいらしくあれ」という期待感の中で生まれ育つので、
多少飛ぼうが弾けようが、欧米の女性と比べれば
かなり男性に優しいんじゃないだろうか。

そもそも日本人という国民のメンタリティー自体が、議論討論向けでないと
いう精神土壌がある。
片や欧米では、ああ言われたらこう返すような訓練を幼児期から受けている
から、なかなか日本人が議論討論の場で太刀打ちできない現状もある。
だから、対象を「女性」に絞ったら、日本女性がおっとり優しく見えるのも
無理なかろう。


●いきなりプロポーズ?!

そんなわけで日本女性はモテるのだが、中東の場合ちょっと様子の違うところ
がある。

西の世界で男性がアプローチしてくる場合、まあ日本と同じような状況なの
だが、中東ではいきなり単刀直入に「結婚」に飛ぶのだ。
会ったその日に「結婚してほしい」と迫り寄られたりするのである。
慣れないと、たまげる。

「結婚しよう」という一言は、日本の男性にとっても欧米の男性にとっても
等しく重い。
この辺を簡単に口にする男性がいたら、余程タチが悪い詐欺まがいか、ただの
直情型のお馬鹿さんであって、程度の差はあれ結構考えて口にする言葉だ。
言ってみれば「誠意の証」なのだ。

一方で中東にくると、いきなり「結婚してくれ」が始まる。
いきなり「誠意の証」を鼻先に出されるので、言われた女性の反応は、
思わず逃げ腰になる人からうっとりと舞い上がる人まで様々である。
これは日本女性に限らない。

言っている本人に誠意がないのかといえば、決してそんなこともなく、
実に大真面目であったりする。
これが「本人同士の話」で終わって、周囲にこそこそすれば妙な感じがするの
だろうが、家族に紹介し、友人知人に「婚約者だ」と紹介しながらつれて歩く。

「彼は真剣なのだ」とプロポーズされた側が感激する行動でもあるらしい。


●「婚約」の意味と「別れる理由」

この辺の事情はいろいろとある。
まず単純なところでは、御当地独特の「男女交際事情」というのがあろう。

ちょっと脱線して昔話になる。
はじめてエジプトに行ったころ、ひとつ驚いたのは、職場のエジプト人の同僚
が大半が婚約していることだった。
当時私は25才で、同僚たちも似たような年齢だったから、そうかエジプトと
いうのは結婚年齢が早いんだなあ、と妙に感心したものだ。

そうかそうか・・・と納得していたら、数ヵ月後また驚く。
「婚約者と別れた」などと、わりと当たり前のように話しているのである。
実際、婚約していると聞いてから、半年以内にみんな
「婚約者と別れて」しまった。
ナンダナンダ?!と驚いたのを覚えている。

日本的な感覚では「婚約解消」などというのは結構大変なことだ。
少なくとも、明るく話題にできることではない。
そもそも男と女が「別れる切れる」という話はどろどろしているもので、
それが「婚約までしていたのに、別れに至った」というと、もう周囲も含めて
ぐっちゃぐちゃになっている様子が浮かんでくる。

ところがエジプトでは、あっちでもこっちでもなんだかアッケラカンとして
いるのである。
ナンナンダ?と再び思ったものだ。
本人たちの心中に複雑なものはあるのだろうが、日本的な「婚約解消」の様相
とはずいぶん違って見えたのである。

で、思い切って「婚約解消の理由」を聞いてみた。

曰く
「この間みんなで遊園地に行ったとき、Y子(日本人)とツーショットの写真
がたまたまあって、彼女に見つかった(他にみんなが写ってた写真、あったけ
どなあ)」
「彼女は犬が嫌いなんだ」
「彼女と映画にいったら、つまらなかったと怒り出した」
「彼って、服のセンスが悪いの」

まあこれは、20代半ばのそこそこ裕福な家庭の子女の例だから、エジプト社会
全体に当てはまるとも思わないのだが、要するに内容は「中学生の男女交際」
のレベルに思える。
いや、最近の日本の中学生のほうがもっとドロドロしてるかもしれない・・・。

で、当時ひとつ理解したのが「婚約者」というのは、ニュアンスとしては
日本語でいう「彼氏」「彼女」ということなのだ、というところ。
もちろん「婚約者」といっているからには結婚が前提なのだけれど、当地では
原則として、結婚を前提としなければ交際はない、という現実を知る。

この辺は、社会階層や都市部か地方かでずいぶん差がある。
婚約していても「二人きりで出歩く」などというのは許されず、出かける時に
は必ず家族の誰かがくっついてくるような保守的な場合もあれば、都市部の
わりあいとさばけた家庭同士だと、二人でデートしているカップルもある。
でも、どちらの場合にしても「家族が認めている」ということが大前提になる
のだ。

だから「僕と結婚してください」というのは
「僕と付き合ってください」という程度の心理状況で出てくる台詞のようだ。
日本や欧米の男性の場合のような「一世一代の覚悟」などという意識はない。
そんなわけで、婚約解消への抵抗感も薄い。

周囲も「婚約した」と聞けば「ああそりゃあよかったねえ」という程度の軽さ
で受け止める。
で、駄目だとなったら周りは「ああそりゃあ残念だったねえ」というくらいの
反応に見える。日本のように重苦しくならない。
もちろん本人たちの心中は、それなりにいろいろと複雑なのだろうが、
少なくとも表面上は拍子抜けするほどあっさりしている。

また、ここも真実のほどは色々だろうが、この段階までに肉体関係は発生して
いないのが「鉄則」だ。
そこで女性の側が妊娠していた、などということになると、これは否が応でも
結婚させられてしまう。
この辺は問答無用である。

実際のところ、結婚が正式に整うまでは「清いお付き合い」のままでいる
カップルは多い。


●「婚約」のいろいろ

また「婚約」といっても、宗教的にも社会的にもさまざまな段階がある。
と、いうか「婚約」という概念自体が「結婚」の一部のように思える。
この辺は、本人の社会階層や生活様式などでかなり違うようだが、
周囲の友人知人同僚らの例を見ていると、
ごくカジュアルな「お付き合い」は結構あるようだ。

ただ、彼の地では独身者は「両親家族同居」が原則なので、息子なり娘なりの
行動は親に結構がっちり把握されている。
経済的に自立していようがいまいが、関係ない。

始まりは観察している限り「グループ交際」らしい。
家族ぐるみのお付き合い、という場合もある。
で、お互い好意をもっているような話になると、ちょこまか周囲が動き始める。

そんなこんなしているうちに、両家の親にせっつかれてとりあえず「ファーテ
ィハ」という簡単な儀式をする。ここで、二人は「親が認めた仲」ということ
になる。
この段階ではそうそう大掛かりにはせず、家族が集まって顔合わせ、といった
程度。このくらいだと「やめた」というのも簡単らしい。

次は「シャブカ」という儀式で、貴金属を渡したりする。
日本的な感覚のいわゆる「婚約」という段階がこのあたりといえそうだ。
ある種「結納」に近いかもしれない。
次は「カタブ・アル・キターブ」という儀式で、ここで「結婚の契約」を正式
に行う。

またエジプトの場合、結婚披露宴と同様に「婚約披露宴」も行う。
「カタブ」の段階で行うものだ。
どちらかの披露宴を大々的にやって、後は身内だけ、という形もある。
この「婚約式」までくると、すでに契約が成立しているので
「やめた」はきかない。

その後正式に新居を構えて結婚、ということになるのだが、なかなか新居の
工事が進まないから結婚を延ばした、などといういかにもエジプトらしい
泣き笑い話も聞いたことがある。


●結婚は契約

さて、先ほど「結婚の契約」という言葉が出てきた。
イスラームでは結婚は「契約」なのである。
両方の家族を交えた話し合いがあって、男性の側から女性に出す
「婚資金(マフル)」の額、それに併せた贈り物の内容が決まるが、
れがきちんと文書化されている。

マフルは日本でいう「結納金」が、法制化されたものと思えばよい。
役所に行くと、書類に金額を書き込む欄があって、エジプトだと最低額が
0.25エジプトポンドだそうだ。

また、この契約には「離婚した場合に支払う金額」も入る。
結婚という人生のスタート時に、そんなことまで約束を取り交わすなんて、
何とも夢のない話に思えるかもしれないが、家族が嫁に出す娘を守る術だ。

イスラーム社会では、男性が女性に離婚を言い渡すのは簡単で、逆は非常に
難しいのだが、この「離婚金」が女性の立場を守っているのである。
だから、結婚は個人対個人でなく、家族同士の話し合いをベースに進められる。
本人同士はホンワカ幸せ気分でいてもらって、現実的な話は周囲が片付けよう、
というわけだ。

尚、よく話題になる「一夫多妻」も、この段階で「妻の同意なしに第二夫人を
迎えないこと」という一項を加えて妻の立場を強化することができる。


●結婚できない男たち

このようなわけで、結婚への道はシンプルではない。
なんといっても、相手の家族が出てきて、婚約者の女性はがっちりとガード
されていて、しかも「相応のもの」をきちんと用意しなければ
正式な結婚にはいたらない。

「相応のもの」とは「婚資金」だ。

金額はこれも両家の階層次第だが、近年イスラーム諸国はどこでも高騰してい
て、社会問題になっているらしい。
具体的な金額は、両家の階層や経済状況によりさまざまだが、庶民的なレベル
でも数十万円は最低限かかるというから大変だ。大体このレベルの男性の収入
の数年分にあたる。

婚約して、マフルを貯めるためにサウジアラビアなど海外へ出稼ぎに行ってい
る間に、金持ちが出てきてあっさり花嫁をさらわれるケースなどもあるという。

だから多くの場合、男性の側も親兄弟が出てきて、婚資金などを整えて
「お嫁さんをもらってあげる」のが通例。
結婚はある種のステータスなのだ。

といったところを背景に「では外国人女性との結婚は?」という話を次回に。

(アリーマ山口)

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最後まで読んでいただきありがとうございました。

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今年の「トヨタカップ」に我らが「アフリー」が参加する。 エジプトで最も人気があるスポーツはやっぱりサッカーですよね。来年のワールドカップには参加できないし、2010年のワールドカップ開催も南アフリカに持ってかれちゃったし、エジプト=サッカーのイメージは沸きにく...
ビザ【ピラミッドが見える家】at 2005年12月03日 20:25
この記事へのコメント
さすがアリーマさん!とっても分かりやすかったです。
自分はエジプト人と結婚しておきながら、実は何も知らないで突き進んでしまい、結婚してからいろいろ学んでいるような感じです。イスラームの本でも「結婚」については結構解説が試みられてますが、実際に友達や同僚のエジプト人を観察して紹介してくれている例はあまりないですものね。
この先にわが身に降りかかる、またはすでに人事ではない話題になっている人のよい参考になる記事だと思いました。
Posted by mona at 2005年11月16日 03:54
monaさん

コメントありがとうございます。
私の話は、おそらく基本線はそう大きく変わっていないだろうとは思うけれど、10年程前の話がベースなので、最近はまた少し違う傾向が出ているかもしれません。
よろしければ、monaさんの周囲のエピソードなども是非教えてください。
Posted by アリーマ at 2005年11月16日 17:30
悠久のエジプトとはよく言ったもので、10年前も現在も恋愛に関して大きくは変わってないように思いますよ。10年前は携帯電話ってみんな持ってましたか?最近は猫も杓子も持ってるので、コミュニケーションは以前よりとり易くなったと思うんですけど、エジプト人の頭の中や社会の仕組みは変わってないように思いますね。
逆にエジプトに対する日本人のイメージがここ数年で大きく変わったように思うんです。私の周りにエジプト人とお付き合いして結婚に至る例が急増したのが7年ほど前。そのときは、まさか私までそうなるとは夢にも思っていませんでした。夫と日本で生活していた頃、日本在住のエジプト人の多さと、それにまつわる痴話話があまりに多いのでびっくりしました。
私としてはみんなにもっとエジプトのことを知って欲しいので、恋愛も結婚も大いに推進していきたいですが、日本人女性は頭がいいのにウブだったりするので心配なわけなのです。
Posted by mona at 2005年11月16日 22:06
monaさん
10年前は、ちょうど携帯電話が普及し始めたころでしょうか?最近は「みんな持ってる」状態なんでしょうね。
恋愛にせよ結婚にせよ、人それぞれさまざまな形があると思います。でも日本の女性がエジプトで男性と親しくなって、諸々の過程を経てひどい被害者意識を持つ例が後をたちません。日本ではあれほど厳しい目で男性を選んでいた女性が、ひとたび海外で外国人の男性を相手にすると、一気に判断力が落ちるのはなぜでしょう。異国で気持ちが高揚しているので、正常な判断力が働かなくなるんでしょうか?それでめでたし、となれば何よりなんですが、なかなかいい話ばかりではなくて。最近は「日本の女性はイージーだ」というイメージまで出てきて、日本女性を専門にカモにする結婚詐欺まがいも、エジプトに限らずあちこちであるそうです。ともあれ、海外の日本女性には、気をつけながらも元気で明るく活躍していただきたいものです。
Posted by アリーマ at 2005年11月16日 22:28
ところで、7年前というと1998年頃でしょうか?
97年末のテロで一気に冷え込みましたが、ちょうどその直前は空前のエジプトブームで、あの事件がなければ日本人渡航者数が10万をついに超えるか?!という状態でした。年々渡航者がうなぎのぼりに増えていたので、勢い現地の男性と出会う機会も増えたということなのではないでしょうか?

ご参考までに。
Posted by アリーマ at 2005年11月16日 22:33
初めまして。
エジプトにとても興味があります。
とても面白そうでしたのでぜひメルマガに登録したいなと思いました。
よろしくお願いします
Posted by ライラ at 2007年01月22日 00:05
ライラさん

実は最近、お休みしている連載と拙ブログではありますが、本体『軍事情報』も情報発信基地としては面白いと思います。
よろしくお願いいたします。
Posted by アリーマ at 2007年01月22日 02:01
エジプト・トルコの旅行、生活体験記!旅行業界・ホテルで現地勤務してました!---中東ぶらぶら回想記:恋愛と結婚 御当地事情 其の一 【第35話】
Posted by バーバリーロンドン 財布 at 2013年12月01日 23:57

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