2005年08月11日

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【第23話】 中東酒事情 其の四 〜エジプトのワインなど〜

● エジプトのワインって・・・

エジプトのビールは、何とか飲める。
「おいしくないっ!」と文句をいいつつも、
『ステラ・ローカル』は節操なく飲んでいた。

でも、じゃあワインは?となると、なんだか気分が暗くなる。

15年程前のエジプト渡航時、初めて赤ワインを口に含んだ瞬間のことは、
忘れたくても忘れられない。
「ああ、エジプトって産油国だったっけな」と、しみじみ思ったからだ。
同じ土壌からブドウもとれるのだろう、と。
思い出すたび、サーカスの火吹き芸人に同情を覚えるワタクシである。
初めて飲んだところが微妙に薄暗かったせいか、
色合いまでが石油っぽく見えた。

この記念すべき(?)赤ワインは「オマル・ハイヤーム」という。
よくもまあ、恥ずかしげもなく、
中世ペルシャの酒仙詩人の名前など騙ったものだ。
その後「念のため」二回ほどタックルして、その度にサーカスに
身売りしたくなったのも、暗い思いに追い討ちをかけている。

白とロゼも、そこまでの強烈さはないにせよハッキリとまずかった。
料理との組み合わせで、食欲を増し食卓を彩るのがワインの使命のはずだが、
こらえて飲んでいるうちに食欲がうせるのである。


●では、輸入ワインは?

では輸入品は、といえば、卒倒しそうに高かった。
フランス産のどうでもいいようなテーブルワインが、免税店で3000円くらい。
現地の物価を考えても、ワイン自体の原価を考えても、許しがたい値段だ。
しかも、白は三本に一本、赤は三本に二本が酸化しているときた。
輸入時の保存状態がよほどひどかったのだと思う。

レストランに行けば、そういうどうでもいいようなワインが一本5000円はする。
しかも、輸入元は同じエジプト政府なので、各レストランに入荷する時点での
状態は、免税店で買う場合と同じだ。

と、いうわけで、2000年くらいまでのエジプトというのワイン環境は
「劣悪」の一語に尽きたと思う。


● この5年の変化

ただしワインについて言えば、過去5年の変化はビール以上だと思われる。
私が完全にエジプトを去った後、
ビール同様に新しい商品がいろいろと売り出され、
国産ワインの品数はかなり増えたようなのだ。

実際、2000年に飲んだ『オベリスク』という新しいワインは、
感動するほどではないけれど、トルコの「並」のワイン程度ではあった。
私が覚えている1990年代半ば頃のトルコのワインは、
同時代のエジプトのビール並みかちょっと上、といったところ。
つまり極私的感覚では
「ものすごく良くはないが、無いよりはまし。一応飲む気になる」
というレベルだ。
これならまあいいか、とイスタンブルに来た当初思ったものだ。

ビールの話で何度か触れたが、エジプトの酒事情は、
国営だった"Al-Ahram Beverages Company"が1997年に民営化されて以来、
急速に変わっている。
私が去るのを待つように加速した気がする、といったら被害妄想だろうか?

妄想かどうかはともかく、
現状をある程度踏まえないで昔話ばかりしていてもしかたがない。
で、どこかの物好きなワイン飲みが何かいっていないかしらん?と、
インターネット検索したところ、あったあった。
いや、便利な世の中になったなあ、と感慨ひとしおである。


●"Vinography.Com"のエジプト・ワイン評

このサンフランシスコ発信のワイン・ブログのコメントは傑作だった。
「記事を引用翻訳してもいいでしょうか?」
と管理者のAlderさんにお伺いを立てたらば、
「どうぞどうぞ。日本には二年住んでいたのに、
日本語が読めないから残念だけど。Yoroshiku onegaishimasu!」
という返事がきた(おや、まあ)。

以下の抄訳と引用は、ここの記事による。

http://www.vinography.com/archives/2005/05/all_about_egyptian_wine.html

数点あげると、以下の通り:

1.NV Obelisk "Aida" Cuvee Brut Sparkling Wine(発泡酒):
明るい金色で、細かい泡が立つ。灯油とニベア・ハンドクリームの香りの陰に
微かなレモンの香り。なんか消毒薬っぽい。約30米ドル。

2.2004 Gianaclis "Cru Des Ptolemees" Pinot Blanc(白):
なんだか消毒薬くさい。カルダモンとシナモンの風味が一瞬面白いが、すぐに
黒いビニールのゴミ袋の味が取って代わって、最後まで続く。約20米ドル。

3.2004 Obelisk Pinot Blanc(白):
干し草と鉱物と羊皮紙のような香り。口に含むと軽い果実味を感じるが、皮と
靴磨き用ワックスの様な風味がかぶってきて消えてしまう。約10米ドル。

4.2004 Gianaclis Rubis d'Egypte Rose(ロゼ):
りんごと湿ったウールの香り。口に含むと程よい酸味と野生りんご(クラブア
ップル)の風味があるが、強いアルコールとラッカーのような匂いと混じりあ
い、舌を焼くような味わいで終わる。約10米ドル。

5.2004 Obelisk "Rosetta" Rose(ロゼ)
じめじめした土と堆肥の匂いがして驚かされる。口に含むと、信じ難いこと
に、湿った落ち葉を燃やしているような味がする。
ほとんど飲めたものではない。約10米ドル。

6.2004 Gianaclis "Omar el Khayam" Cabernet Sauvignon(赤)
デーツとプルーンとエキゾティックな花の香り。口に含むと、コクはあまりな
いが杉とイチゴの風味がある(!)が、一方でカベルネ・ソービニョンらしい
ブドウの味はせず、なんとなくそのまま締まりない感じで終わり、アルコール
で口が熱くなる。約15米ドル。

7.2004 Chateau Des Reves Cabernet Sauvignon
オークと土と皮と干したチェリーの香り。口に含むとチェリーの味わいがして、
バランスは良いのだが、微かな咳止めシロップのような味が邪魔をする。
レバノンから輸入したぶどうで作っており、今回飲んだ中では
「カベルネ・ソービニョン」を謳って、唯一それらしき味がしたワインだ。
約20米ドル。

(以上、引用抜粋)


● 私的補足コメント

・・・という具合に、絶妙なボロボロ加減でけなされている。
上記も含め、発泡酒1点、白とロゼ各3点、赤4点の計10点が紹介されていたが、
最低が(読めばわかるように)5のロゼ、「一応合格」というニュアンスなの
が7の赤。

尚、以上はあくまで抄訳で、色合いやら評価点など、省略した部分も多い。
詳細に興味のある方は、記事本体を御参照いただきたい。記事自体、こちらで
は割愛したが、エジプトのワイン生産の歴史からテイスティングした時の状況
まで内容豊富で、大変面白い。紙数の関係で全部ご紹介できないのが残念だ。
なにしろ「ワイン好き」という人種は、まずエジプトなんかにやってこないも
のだから、このコメントは貴重である。

さて、ワインに関して驚いたのは、
私の「暗い記憶」が相当進化を遂げているらしいことだ。
15年以上前からあるワインは2と4と6。
特に、6の赤は件の「初めて飲んだ赤ワイン」である。
私とは比較にならないほど舌の肥えたワイン飲みが、
褒めはしないまでも、吐き出さずになんとか飲み下したというのだから、
この『オマル・ハイヤーム』が余程進化したに違いない。
前述のように、私が一度だけ飲んで
「以前よりはかなり良くなったナ」と感じた『オベリスク』(3と5)が
コテンパンに酷く評価されているから、きっとそうに違いない。

もちろん、Alderさんのコメントが全てだとは思わないし、
美味い不味いは個人の好みや、飲んだときの雰囲気などに左右されるものだ。
私のコメントもあくまで「私感」なのは言うまでもない。



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