●山口組、ソウルへ・・・
去る3月25日夕刻、山口組組長とその姐はソウルに向かった。
・・と書くと政治情勢のみならず裏社会でも何か変動が・・・というスッパ抜
き記事のようだが、単に私と夫が二人で週末かけてソウルに行ってきた、とい
うだけだ。
目的は当然カチコミ・・・じゃなくて観光である。
実は韓国というのは、個人的にカイロ生活と無縁ではなかった。
だから、コジツケくさいが、今回は番外編をひとつ。
最初に申し上げておくが、何故韓国であったかというのは、最近の政治情勢や
ら、諸々の『軍事情報』の記事とはまるっきり関係ない。
一ヶ月くらい前、夫が仕事で中東方面を這いずり回って溜め込んだマイレージ
を気前よく放出しちゃおう、と言い出したのだ。「わーい、もつ焼き、キムチ
サムゲタン!」と、政治性ゼロの発言をしたのは妻のワタクシ。
瞬間的に真っ赤に燃える美味そうなものの幻影で、頭がくらくらしたものであ
る。
●ソウルの思い出
実はソウルは、今回で5回目。
考えてみれば不思議なことに、今回を除いていつも中東とワンセットになって
いる。
一度目はモロッコや南欧をうろうろした約20年前の学生時代。その後三回はカ
イロ在住時、日本とセットで韓国にも仕事で出張した折だ。
どの場合も理由は「大韓航空だったから」と、主義も主張も何もない話ではあ
ったけれど。
今回同様、いずれも二泊三日程度の短い滞在だったが、それでも『街の匂い』
は感じられたと思う。いつ行っても、奇妙な既視感を感じる。街に違和感がな
いのだ。
既視感と同時に、不思議なシンパシーが沸く。
祖母が対馬だから、私にも朝鮮半島の血がどこかに流れているのだろうか?
学生時代の滞在はソウル・オリンピック直前、カイロからの出張はワールドカ
ップ開催が決まる頃と、それぞれ時期的に面白かった。
特に最初の訪韓時は、街全体からエネルギーの渦が立ち上るようで、「東京オ
リンピック前の東京はこんな雰囲気だったのだろうか」と想像しながら街をぶ
らぶらしたのを覚えている。
●カイロで韓国語
さて、「カイロ生活と無縁でなかった」と書いたので、それにまつわる思い出
話を少し。
当時私はカイロで某ホテルの営業をやっており、担当はざっくり「極東地区」
となっていたので、日本だけでなくカイロ現地の韓国法人の顧客も結構抱えて
いたのだ。で、旅行業のほうも何とか食い込もうと「まずは市場調査」とかな
んとか言って出張申請したらあっさり通ってしまい、「わーい、もつ焼き、キ
ムチ・・・」と喜んだ次第。
節操がない、といわれてしまえばそのとおり。
無いです。特に飲食については。
カイロ現地の韓国企業には、当時色々とお世話になった。
確かに「日本人?オンナ?で、このカイロでウチにいったい何しにきたわけ
?」という反応も当初無いではなかったが、「こういう土地で同じアジアの人
間ががんばっているのだから応援しなければ」と、言ってくれる人も多く、営
業活動をはじめてしばらくしたら、かなりの量の仕事が入るようになった。
あまりに急速に宿泊客が増えた。日本人宿泊客を越える月もしばしばだった。
それならば、と一念発起して、某社の駐在員の紹介で韓国語のプライベートレ
ッスンを受けるようになった。しかし残念ながら、二ヶ月ほどしたら先生が帰
国してしまったのである。
しかも、別のホテルに韓国人のスタッフが入ったら、ドドドと顧客らはそちら
に流れてしまい、なんのかのと私の韓国語学習は頓挫する。残念だったが、そ
れでもハングルがかろうじて読めるのはありがたいことだ。
今回もメニューが読めたし、かつての出張時も訪問先旅行代理店のツアーのパ
ンフに書いてある日程表くらいは読めて助かった(ちなみに代表的な旅行社
は、KTBとKALPAKである)。
また、顧客らは無節操に私を見捨てたのでもなく、「やっぱり、このような国
で同国人ががんばっているならば・・・わかってくれるね、ヤマグチ・・・」
と、大層すまなそうだった。そうですか、まあ何かの時には思い出してくださ
いよ、とあっさりあきらめたものだ。
エジプトで言う、「マァレーシュ」(まあ、しょうがないや)というやつであ
る。
●スキャンダル発生?
どうでもいいけれど、この狭いカイロ韓国人社会で、ワタクシの男性関係につ
いて一度だけスキャンダルが発生したことがある。「ヤマグチが『トール、ダ
ーク、ハンサム』な男と、韓国料理屋で非常に親密そうにしげしげと食事をし
ている」というのである。
勢い込んで電話で一報をくれたのは、G社の李さんだった。
「・・・という風な噂になってるよ。どうなってるの、本当のところ?」
はて、と首をかしげた私。
そういう事実があれば、ある意味嬉しいことだが、悲しいかな覚えが全くない
からだ。
で『いつどこで』といったところを突っ込んで、軽いため息をついた。
「ミスター李、それはですね、うちの夫です。マイ・ハズバンド!」
(トールとダークまでは確かに正しい。サイパンの空港で現地スタッフに間違
われたことは、連載第一回目に書いたと思う)。
で、ミスター李は積極的にあちこち訂正して回ってくれたようで、その後「も
う大丈夫だから」と電話をくれた。カムサハムニダ。
ちなみになぜカイロで韓国料理屋かというと、日本食レストランと違って安く
ておいしくて良心的だったからだ。3〜4軒あるけれど、どこもそれなりにが
んばっていた。
カイロで現地食に疲れたら、日本食も良いけれど韓国料理はお勧めである。
●今回の印象など
ワールドカップを境に街の風景がずいぶん変わったように思える。
携帯電話も当たり前に普及している。
しかし、着信音量はすごい。日本の携帯の音量を最大にしてもああは鳴り響か
ない。最初は何事かと思った。そして、電車の中、バスの中など、どこであろ
うと特にマナー的にはお構いなしの様子。
怒られるかもしれないけれど、日本の携帯電話マナーに、正直なところちょっ
とくどすぎるものを感じている私は、少しほっとした気分になる。
市の中心部にあるロッテホテルは、巨大で洒落たショッピングセンターの一部
となっていた。地下にはこれまた洒落た食料品売り場がある。
実は我ら夫婦、スーパーマーケットの試食の類には目がないのであるが、ここ
はすごい。
立ち止まって眺めているだけで、ほとんど顎を捕まえてアーン状態で、いろい
ろなものを口に放り込んでくれるのだ。
日本だと、手を伸ばした瞬間「買うんでしょうね、アンタ、買うんでしょう
ね、食べたからには買いなさいよ」という無言のプレッシャーがかかるものだ
が、そんな空気はまったくない。「はい食べて、ほら食べて、こっちも食べ
て、ほらどうぞ、もうひとつどう?」と、こちらはほとんど雛鳥状態になる。
お昼においしいサムゲタンをご馳走になり、夜はもつ焼き大会が企画されてい
る中間時間帯。なすがまま雛鳥になっていると、肝心のものが食べられなくな
るし、週末だけ会って大変な人出。さすがの我々も逃走し、近くのホテルのロ
ビーで一息ついた。
一息つきながら、ホテルのロビー周りのスタッフをぼんやり眺めていた。
姿勢が良い。所作振舞いがきびきびと美しい。指先、足の先まで緊張感ととも
に、惚れ惚れするほど美しい動きだ。まだこの国では「ホテルマンの誇り」が
健在らしい。
日本ではこの頃あまり見かけなくなった光景である。
確かにかつてのチョソン・ホテルであったそこは、いまやソウルでもナンバー
ワンだとは言うけれど、韓国の一流どころのホテルマンは、全体にハイレベル
だと思う。
あと、街のいたるところ、日本人観光客がきそうなところには、軒並み『ヨン
さま』のポスターがこれでもかと張ってあった。特に眼鏡関係は100%。はは
は。
時は移る。街は変わる。人も変わる。
●最後に、思うこと・・・
散漫なまま、延々と長くなってしまった。
いきなり強引にクロージングに持ち込んでしまおう(あれ、ま)。
日本と韓国ほかアジア諸国の歴史的問題については、当連載で大きく何かを語
るべきでないと考える。マクロな視点からの意見や分析は、本体の『軍事情
報』に任せよう。
さて、では私個人のごくミクロな視点から思うことを少しだけ。
心に傷を持たない人間はいない。少し大げさに言うと、これはトラウマとも言
われる。
バケツにあいた穴のようなもので、放っておくと広がったり、あるいはいつの
まにか消えていたりする。放っておけば消えてしまうようなものは良いとし
て、そうでないトラウマは、きちんと対峙して自分なりに乗り越えないと、い
つまでもいつまでも付きまとって離れなくなる。
こういった傷を乗り越えて、バケツの穴を努力してふさぐことを『人間的成
長』というのかもしれないな、とこの頃思う。
同じトラウマを同時代に多くの人々が抱えると、それは歴史的瑕疵となる。
バケツはより大きくなり、穴の形も複雑になり、塞ぐ作業もそれだけ難しいも
のとなる。
日本と韓国はじめアジア諸国との「歴史的瑕疵」は、やはりなんとか努力し
て、前向きに乗り越えるべきものだ。
一個人の抱えるトラウマなどと比較するのは、非常に乱暴だとは思うが、戦後
から今にいたるまでの過程を見ていると、「きちんと対峙して前向きに乗り越
えよう」という強い思いがあまり感じられないので、敢えてそういってしま
う。
そろそろ思春期の子供のような悩み方をやめて、大人になるときなのではなか
ろうか。
何が必要かといえば、私に思いつくのは、膝を突き合わせ、相手の目を見てき
ちんとしたディスカッションをすることと、民間レベルでの交流をもっと深め
ることくらいだけれど。
帰りの便に乗る前に空港のレストランに駆け込んで、いじましく『赤い汁物』
をぱくつきながら、そんなことを考えた。
帰宅後、我が家の味噌汁は赤く染まり、これはしばらく続きそうである。
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